逢いたい相手

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実は棚村さんのご先祖様って、藩政時代には上級武士の身分だったらしい。 その所為か、棚村家には千登勢市内に旧くからの知り合いも多く、そして『知る人ぞ知る』といった人脈も有しているらしい。 これからお邪魔しようとしている『占い師』にしても、そのご先祖様は江戸時代には藩主お抱えだったとのことで、今でも県の政財界といった限られた顧客を相手に占いをしていると、棚村さんは如何にも秘密だといった感じのヒソヒソ声にて教えてくれた。 また、亡くなった人との会話も出来るとのことで、迷宮入りしそうな殺人事件のヒントを得るべく県警のお偉いさんがコッソリ相談に訪れることもあるらしい。 『多田頼政が生きていてくれて、そして証言でもしてくれたら』という僕の言葉を耳にした棚村さんは、その占い師に多田頼政を呼び出してもらおうと思い立ったのだ。 僕らの会話を後ろから聞いていたであろう日渡教授が、落ち着かない様子にて問い掛けて来る。 「それでさ、ちゃんと多田頼政を呼び出せるんだよね?」と。 半ばほど振り向いた棚村さんは、日渡教授にこう言葉を返す。 「その人に係わりのある品があれば、問題無いかと存じます」と。 凜然とした、そしていかにも自信ありげな口調にて。 占い師に過去の人を呼び出してもらうには、その人に縁のある品が必要とのことだ。 普段から愛用していた身の回りの品々とか、あるいはその人が書いた日記や手紙とか。
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