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「ねぇ、里見センパイったら!
ホンットに酷いと思いません、このクソ記事!
名指しこそしてないけど、うちの教授のことをメッチャ馬鹿にしてますよねっ!」
待たせたペナルティとして奢らせた缶コーヒーを一気に飲み下した棚村さんは、まさしく怒り心頭といった調子で僕へと語り掛けてくる。
壁際に置かれたソファーに座っている僕に向け、真正面からグイグイと迫り来るような感じにて。
彼女はその顔を間近まで寄せ来るので、何とも戸惑わさせられてしまう。
「まぁまぁ棚村さん、そう興奮しなさんなって」と、彼女を宥める一方で、僕も内心では憤然たる思いを抱きつつあった。
「パキン」と仄かな音を立てて、ラウンジの蛍光灯が瞬いた。
まるで僕らが抱く腹立たしさに相槌を打つようなタイミングで。
この千登勢市は県庁所在地で、僕や棚村さんが通う『千登勢大学』は地元の国立大で、その史学部は地元の歴史研究では権威といった立ち位置にある。
また、史学部の教授である日渡教授は、この地方の戦国期における歴史研究の第一人者ということになっているのだ。
日渡教授は御年五十五歳。
痩せぎすで黒縁メガネを掛けていて、髪の大半は白髪に置き換わっていて、その雰囲気は如何にも歴史の求道者といった佇まいだ。
実直な研究スタイルに基づく成果は学会でも高く評価されていて、執筆した論文は幾度も賞を獲ったとのことだ。
僕らから見ても真面目な研究振りは尊敬するしかないし、資料の読み込み方や考察の仕方など、教えて頂くことはとてもためになっている。
ただ、実直な学者さんにありがちなタイプとして、あまり口達者なほうではなく、そんなに空気を読める訳でもないので、専ら論文によって実績を積み重ねてきたタイプだった。
その『権威』たる日渡教授をしてみても、戦国時代の末期に起きた『払戸川の戦い』の真相は謎のままだった。
もちろん、日渡教授としても様々な調査を積み重ね、事の真相を明らかにしようと努力はしてきたのだ。
様々な文献を地道に精力的に収集しては読み込んだり、戦いに関係のある史跡を入念に調査して手懸りを探してみたりとコツコツ努力を積み重ねては来たけれども、残念ながらその真相に迫ることは出来ずにいた。
『権威である日渡教授の長年の調査を以てしても解き明かされることの無い謎』ということで、『払戸川の戦い』の真実は、その神秘性を増しつつあったと言っても過言では無いのだろう。
けれども、ここ最近になってから『払戸川の戦い』の研究に関する状況が大きく変わりつつあったのだ。
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