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ひとしきり仙道助教授の記事を読んだ僕と棚村さんは、まるで示し合わせたかのようにして深々と溜息を吐く。
仙道助教授の予言通り、彼が『払戸川の戦い』の真相を巧みに解き明かしてしまった暁には我等が日渡教授の評判は大きく落ちてしまうだろう。
そして、その研究室の出身者である僕たちだって肩身の狭い思いをしてしまうに違い無いのだ。
僕も、そして棚村さんも大学を卒業した後は県内で就職することになるんだと思う。
僕は高校の歴史教師になる予定だし、棚村さんは県庁務めの公務員を志望しているとのことだ。
棚村さんはここ千登勢市の出身で、そして長女なので親御さんから地元に残ることを望まれているらしい。
僕たちが地元に残ることになり、そして日渡教授のゼミ出身者であることが知られてしまうと、「あの『払戸川の戦い』の謎を解き明かせなかった日渡研究室の出身者」として揶揄されることだったあるかもしれない。
そのことを想像すると実に気が重いのだ。
「日渡先生、何とかしてサクッと『払戸川の戦い』の真実を解き明かしてくれませんかね?」と、棚村さんは投げ遣りな調子にて、愚痴とも懇願とも判別し難い言葉を口にする。
「う~ん…。
多分だけど無理でしょ?」と、先程の日渡教授の様を思い出しつつ、つれない返事を返す僕。
これまで数十年も謎の解明に取り組んで来て、それでも解き明かせなかったんだから、あと 二~三年でパッと真実を解き明かすなんて絶望的なのだろう。
例の仙道助教授が『払戸川の戦い』について言及し始め、そして日渡教授が日に幾度と無く溜息を吐くようになって半年ほどが経つ訳だけど、それでも一向に真実とやらに迫った気配など無い。
新たな文献や証拠など出て来たら別かもしれないけど、この期に及んでそんなものが都合良く出てくる訳なんて無いだろう。
何とか解き明かせないですかねと、まさしく玉石混淆と言わんばかりの色んなアイデアを次々に口にする棚村さんだったけど、その殆どは残念ながら以前に僕も考えたことがあるもので、そして全てが望み薄と言って良いものだった。
文献調査はそれこそ日渡教授が悉く済ませているし、合戦の跡地の調査だって幾度も行われているから新たな発見なんて望み薄だ。
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