DiVA

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二日後。 俺は富裕層御用達の別荘島に来ていた。しかし。 「軍事クラストップレベルの防衛線が島中に貼られているなんて穏やかじゃない。ここは島ごと機密軍事施設かよ」 ふうっとため息を着いて普段なら絶対身に付けないキツく締めたネクタイの首元を少し緩めて、渡航した舟場からDiVAの迎えの車を待つ。 日陰のベンチに座っていても日差しが眩しい。 目を細めながら思考を巡らす。 二日前。間髪届けられた配達物にはDiVAの居住地の地図。其処に辿り着けるように日付け指定入りの旅券IDに、DiVAスタッフの偽造身分証明書。高級スーツ一式。そして一発の弾丸が入った拳銃。 そこに何故DiVAを殺す理由なんか何一つ記されて居なかった。 俺は機械的に考える余地などなく、家を飛び出してここに来ただけ。余計な詮索をして(ペナルティ)が食らうかなんて試したいと思はない。全ては金の為。 昔みたいに、誰かのために己を殺して遂行理念を掲げるのは疲れている。 しかし、契約を滞りなく進める為にもターゲットと依頼者のことは知る必要があるだろうと、ここに辿り着く迄にDiVAと(ファン)静賢(チンシェン)氏の事を調べ、頭に叩き込んだ。 こうして、瞼を閉じていてもソラで思い出せる事が出来る。 (ファン)静賢(チンシェン)は昔に妻と一人息子の家族を事故で失った。その時に年端もいかぬ孫の月故(つきこ)も失い。悲しみにくれ、より研究に没頭するが、皮肉にも数々の論文と研究を発表してその地位を不動のものにしてしまう。 すっと瞼を明けて、まだ迎えは来ないかと辺りを見回すがまだ送迎車の影は見えない。 仕方なく、記憶の続きを言葉に出して時間を潰す。 「そして、DiVAは突然現れた年齢も顔も分からない歌姫。その姿はホログラムで如何様にも変わる。大手事務所のタイアップにより支持を得て、あっと言う間にスターになった歌姫、か」 確かに彼女の歌声はどこに行っても聞ける。ここに着く迄にもいろんな歌声を聞いた。 その多彩な歌声と極度に顔の露出を抑えたミステリアスさでDiVAはグループで構成しているなんて言われていた。 「もしそうだったら、弾丸は一発じゃ足りないな」 ふっと笑うのと同時に俺の前に車がピタリと止まった。それは一般車両ではなく一般車両に扮した防弾車。しかし、これが迎えの車だと思った。 事務所じゃなくて軍事に守られているDiVAってなんなんだろうか。 興味は尽きないところだが、知ることが契約では無いと頭を切り替え、車から出てきたスーツの男にこちらから挨拶をする。 男の目を見ながら(ファン)静賢(チンシェン)が用意した身分を名乗る。 「こんにちは。(ファン)静賢(チンシェン)氏の後任に指名された梓睿(ズールイ)です。DiVAのサポートをこれから担当させて貰います」 手を差し出すが、迎えの者は一瞥しただけで「御託は不要。与えらたことだけをやっていればいい」と、車の扉をガチャリと開けた。 そりゃいい。 こちらも男なんかと握手なんかしたくない。ふっとため息だけついて、車に乗り込む事にした。
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