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道中も会話は一才なし。
こちらを詮索する素振りもない。
それが返って不気味でもあったが、余計な詮索をされたい訳じゃないから黙っておく。
多分、黄静賢が用意した身分証明書が完璧なものだろう。
実際DiVAが居ると言う、別荘とは名ばかりの警備がやたらと厳重な白亜の豪邸に足を踏み入れてもIDカードのチェックを受けただけで、ボディチェックも何もなし。
まんまと踏み込めた別荘の中は、ホテルの内装にも引けを取らない豪華さだった。
しかし生活臭は全くしなかった。
(事務所なんか最初から貼りぼてだと思っていたが、ここまであからさまかよ。全く人の気配がしない)
しかし、地図も頭に叩き込んでいたのでここに一度来たことがあるような、既視感を感じていた。
その時に男がただ一言。
「DiVAはメンテナンスは黄静賢の後継人しか受けないと断言している。DiVAが望む最終目的は我々の崇高なる目的とそこから生み出される莫大な金だと言うことを忘れるな。まぁ、後継人のお前には今更だろうがな」
でなければ、此処には来ないだろうと言い終わったとき。廊下の際奥。一際重厚な扉の前で男は足を止めた。
「中はDiVAの領域だ。何かあればこの扉の横の回線を使え」
すっと男の視線が、扉の横に設置された電話を見た。分かったと頷く。
「では」と、男は会話を終えて今来た廊下を戻って行った。
疑問が過ってしまう。
何故男はサポートではなく、メンテナンスと言うのか。
黄静賢も最初は壊せと言ったあとに殺せと言い直したのか。
その答えが。
この扉の向こうにある。
DiVAがいる。
俺の目標。
どんな人物が待ち受けていたとしても、契約を遂行しなければ俺の命が危うい。
(DiVAには恨みはない。仕留めるなら苦しみを与えずに直ぐに殺す。この手は汚れきっている。また一人屠ったところで──)
ふと目標を前にして、感情的になっていることに気付いた。
俺も随分ヌルくなったもんだと胸の内側にある拳銃の存在感を思い出して、迷いなく扉を開け放った。
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