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中に入ると豪華な部屋ではなくて。
目に染みるような白一面のま四角の部屋。その真ん中に白い石柱のようなオブジェがあった。
「これは」
声に出した瞬間、オブジェから羽虫のような稼働音が聞こえたと思うと。
オブジェの上にホログラムが出現した。それは資料で見た、黄静賢の孫娘。月故だった。
『こんにちは。私がDiVA。あなたが次のお祖父様ね』
幼い幼女の声。
俺がラジオで聴いたものとは別物。
「こんにちはDiVA。俺は君のサポート役だ」
『お祖父様の後を継いだ新しいお祖父様。では早速だけども。新しいのが欲しい。次はアングロサクソン系。年齢、性別は前回と一緒』
唐突にお菓子を買ってきてと言われるような気軽さだったが、ホログラムが人を要求する異常さを感じた。
これではまだ引金を引けない。
この本体は一体何か、弾丸はどこに打ち込めばいいのか。見極めなくてはいけない。そう思い、DiVAの調子に合わせる。
「用意はする。それが俺の役割だ。しかしその前にDiVAの君を理解したい。初対面同士。仲良くするのには交流は必要だろ?」
優しく喋り掛けるとDiVAは笑った。
しかしヒューマンジェスチャーはプログラムされてないのか、顔は笑っているのに瞬きがないのは流石に不気味だと思ってしまった。
『そうね。初めのお祖父様も沢山私に喋り掛けたり泣いたりしたもの。いいわ。交流しましょう』
「ありがとう。まずは何故君は歌うんだい?」
『そんなの決まっているじゃない。それが存在意義だからよ。月故が決めたことだもの』
その言い方では月故とDiVAの関係性が分からない。少し違う角度から尋ねる。
「存在意義か。確かに君の歌声をラジオで聞いたとき、魂が震えるような感動があった」
もちろんリップサーヴィスだった。
『本当に? 嬉しいわ。震えたって言うとこの曲かしら』
『──让你的灵魂颤抖吧』
部屋に音が響き、鼓膜を震えさせた。
『まだちゃんと開発していないのに人を震えさせたのは何でかしらね? 人間の運動神経が起こす収縮。生理的、本能、代謝性の疾患。これらを意図的に個人に作用するなんて不可能に違いのに』
あははと笑うDiVA
部屋に響く音楽。
なんだか悪い夢を見ているよう。
(これは会話が成り立たないな。ワードだけ拾って繋げるとどうにも嫌な事を想像してしまう)
脳科学の権威。
亡くなった孫の月故。
そのホログラムを利用するDiVA。
人を要求。軍、歌、開発。
そして震える。
(まどろっこしい。もう素直に俺の仮説をぶつけるか)
「DiVA。実は俺は前任者から君の事を詳しく知らされて無くて。君は亡くなった月故の──人格をプログラムされたID。そして、何か軍の兵器……震える……マイクロウェーブに何か特化した兵器の開発に従事していると言うのに間違いないか?』
『そんなチープな認識、不愉快ね。あのお祖父様ならちゃんと次に引き継がれなくて当然ね。いいわ、私は学んでいる。お互いに齟齬が生まれると人は良く無いものね』
あはは。仲良くしましょう。お祖父様。
DiVAはそう言って笑い続けた。
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