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十字架の杖は淡いブルーの光に包まれるとルーシェの腰元に短剣として戻った。
「ミーティア・・」
ルーシェはミーティアを優しく抱きしめて髪をなでる。
「無事でよかった・・」
「助けてくれてありがとう、ルーシェ・・」
ミーティアもルーシェを抱きしめた。
あの時、もう2度と会えないのかと思ったのだから。
「王子より軽い魔法で、外の護衛の騎士達も同じように眠っている。今のうちに逃げよう」
「うん・・」
ミーティアとルーシェが泉の間の外へ出る。
「まずは、ロア神殿から出て家へ戻ろう・・。王子と騎士達は夕方までは眠って動けない。その間に、コーラルレイン王国を離れた方がいい・・。泉の間の周囲には誰かが事前にカモフラージュの魔法をかけているから、王子と騎士達が倒れて眠っていることは俺とミーティアしか知らない話になる・・」
かなりの魔法の実力がなければカモフラージュの魔法を使うことはおろか、見破ることもできない。
ルーシェは泉の間に潜入する際に結界だけではなくカモフラージュの魔法にも気づいており、騎士達を眠らせてもしばらくは気づかれないとわかっていた。
ルーシェにはカモフラージュの魔法をかけた人物に心当たりがあった。
さすがに誰なのかまではわからないが、これほどの魔法を使えるのはコーラルレイン王国では上位の王宮魔道士くらいなのである。
コーラルレイン王国にいるかぎり、サキ王子が再びエターナルを狙ってくる可能性がないとは言えない。
ミーティアの安全を考え、コーラルレイン王国を出た方がいいとルーシェは思ったのだ。
「ごめんね、ルーシェ。私のペンダントの事なのに巻き込んでしまって・・」
ミーティア本人もエターナルのことは今日のサキ王子の話で初めて知ったが、ルーシェを巻き込んでしまったことは申し訳なかったのだ。
「俺はミーティアを守りたいと思っただけだ。これからも俺がミーティアを守る・・!だから、安心してくれ・・」
ルーシェはミーティアの手を優しくにぎった。
「ルーシェと一緒にいられるのなら、私は住む場所なんてどこでも大丈夫だよ。私が1番怖いのは、ルーシェが隣にいない事だけだから・・」
ミーティアはルーシェの手を強くにぎり返した。
これからは生まれ育ったコーラルレイン王国を離れて、ルーシェと共に生きていく。
ミーティアとルーシェは突然おとずれた新しい人生に向かって歩みはじめたのだった。
自宅に戻ったミーティアは急いでコーラルレイン王国を出ていく支度をする。
着替えなどの必要最低限の荷物だけをまとめて、テーブルの上に仕事先であるパン屋への手紙を残す。
荷物の準備ができたミーティアが家の外に出ると、支度を終えたルーシェが待っていた。
「街の様子を見ていたが、今のところ問題はなさそうだ」
「ルーシェはお仕事は大丈夫なの・・?」
ミーティアが不安そうにたずねる。
「俺は決まった場所で働いていないからな・・。魔法の依頼を受けた時だけ仕事をしている。今日のロア神殿での仕事が終わったあとの依頼は今はないから、俺は大丈夫だ」
仕事のことではルーシェに迷惑をかけないことにミーティアはひとまず安心した。
「ルーシェ・・。これからもよろしくね・・!」
不安がないと言えば嘘になるが、ミーティアはルーシェと一緒なら新しい人生も悪くないと思えた。
「これからもミーティアと一緒にいられるのなら、俺は嬉しい・・」
謎を秘めた黒いペンダントであるエターナルを持つミーティアとヴァンパイアの魔法使いルーシェ。
2人を待ち受けるのは幸せか悲劇か。
それは誰にもわからない。
1つだけ確かなことは、2人の絆は誰にも切れないということである。
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