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コーラルレイン王国の第1王子サキ・コーラルレインは国王と第2王妃のあいだに生まれた王子である。
王位継承順位は第1位であり、生まれた時から次期コーラルレイン国王となる運命が決まっていた。
しかし、そんなサキ王子のアフロディーテ城での暮らしは、国民がイメージする幸せな優雅な暮らしとは少し違うものだった。
コーラルレイン王国では、国王と正妻である第1王妃とのあいだに生まれた王子か王女が生まれた順番に関係なく王位正統後継者となる。
例えば、第3王妃とのあいだに第1子となる女の子が生まれて第1王女だったとしても、第1王妃とのあいだに生まれた第2王女が王位正統後継者として将来の女王となるのだ。
この場合は「姉」ではなく「妹」が王位を継ぐことになる。
こうした王位継承のルールにより、時には王位を継げない上の兄弟が下の兄弟をよく思わず不仲になることがある。
だが、現国王であるサキ王子の父は妻と子供達を平等に愛する王だった。
そのため、正妻とのあいだに生まれた子ではないサキ王子が王位正統後継者となったのはコーラルレイン王国では異例の事態だったのだ。
サキ王子が3才の時に弟であるイェルカ第2王子が正妻とのあいだに誕生したが、国王はサキ王子の王位継承順位を変えることは決してしなかった。
古いしきたりにしばられる必要はないとアフロディーテ城内の多くの人間が新しい王族の形に賛成していたが、第1王妃を含む一部の人間がそれを許さなかったのだ。
15才になったサキ王子は自分の存在を快く思わない人間がいる事を理解して過ごしていた。
サキ王子が王都の景色をバルコニーから眺めていると、苦手な女性が歩いてくるのがわかった。
「おはようございます、マリー王妃」
「・・これはこれは、サキ王子。おはようございます・・」
第1王妃マリーはサキ王子に目も合わせず、まるで呪文のように挨拶の言葉だけ声にだすと足早に去っていく。
しかし、実の息子である第2王子が偶然その場を通りかかる。
「まあ、イェルカ!今日も素敵な朝ね!」
「母上・・!おはようございます・・」
イェルカ王子は気まずそうに母であるマリー王妃に挨拶をする。
「ねぇ、イェルカ。今日は午後から有名な音楽家様をお招きして茶会を開くのよ。あなたもいらっしゃいな」
マリー王妃はサキ王子への態度とは打って変わって、ニコニコと楽しそうに話している。
それは、サキ王子には見慣れた光景であった。
「では、また午後にね」
マリー王妃がバルコニーをご機嫌に去っていく。
王妃の姿が遠くなった事を確認してイェルカ王子がサキ王子にかけよる。
「兄上!おはようございます!お会いするのはお久しぶりですね!いかがお過ごしでしたか?」
マリー王妃はサキ王子を気に入ってはいないが、イェルカ王子は兄であるサキ王子の事を慕っていた。
しかし、母であるマリー王妃がサキ王子と話すことを許さないため、こうしてすきを見つけて話しているのである。
「おはよう、イェルカ。ロア神殿での儀式が無事に終わったようで私も安心したよ。初めての1人での儀式は緊張するからね。私はいつもと変わらず過ごしているよ」
次に話せるのはいつになるかわからない。
サキ王子とイェルカ王子はつかの間の兄弟の会話を楽しんだ。
「イェルカ・・」
「何でしょう?兄上・・?」
サキ王子の表情はくもっていた。
「私はね・・。これからもイェルカと話したいよ。でも、イェルカも少しはわかるだろう?私とイェルカが話しているのを誰かに見られて、イェルカによからぬ噂がたつのは嫌なんだ・・」
サキ王子は自分と話すことで罪のない弟に何かあったらと思うと心配だったのだ。
「兄上!誰がなんと言おうと私は兄上と話したいのです!ですが、兄上のお気持ちはありがたいと思います・・。兄上がご心配でしたら、これからは客間を使うのはいかがでしょうか?」
どうしてもサキ王子と話したいイェルカ王子が意外な提案をする。
「なるほど、客間か・・。王子同士の密会というのもおかしな話だね」
イェルカ王子の言葉により、こわばっていたサキ王子の表情が少しゆるんだ。
「では、日付を決めましょう!私は午後の茶会には参加しませんので、本日の午後でも問題ありませんよ!」
先ほどのご機嫌なマリー王妃を見ていたサキ王子は不安な気持ちになり弟にたずねる。
「茶会に参加しなくて大丈夫なのかい?」
「母上には会いたくありません・・。魔法の勉強と言っておけば諦めますよ!」
イェルカ王子の明るさがサキ王子の救いだった。
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