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弟のイェルカ王子との関係が良好でも、サキ王子のアフロディーテ城での暮らしから悩みがなくなることはない。
だが、サキ王子は運命の出会いを果たす。
それは、忘れもしない15才の雨の日の出来事だった。
騎士隊長ライトの部屋を訪れたサキ王子は、部屋の入口まで聞こえる大きな声を聞いてしまったのだ。
「ですから、先ほどから申し上げているでしょう?!私は王位正統後継者はイェルカ王子だと思っているのです!サキ王子の母君は第2王妃ですぞ?!王宮魔道士としてせっかくの配属が第1王子では困るのです!変更のご検討をお願いしたいと何回も言っているではありませんか!騎士隊長殿!」
声を荒げているのは新しく王宮魔道士としてアフロディーテ城にやって来た若者だった。
「魔道士殿・・。お静かに願います。ここはアフロディーテ城内ですぞ。王族の皆様が過ごしておられるのです」
三日月のマークのマントをした騎士隊長ライトが冷静に対応する。
さすがにサキ王子もここまではっきりと言われると限界というものがある。
「失礼するよ、騎士隊長」
「サキ殿下・・!」
ライトが突然の王子の訪問に驚く。
「そちらの王宮魔道士殿をご希望通りに第2王子の配属に変更してもらいたいんだ。お願いできるかい?」
「殿下・・」
ライトはサキ王子が魔道士の言葉を聞いてしまったことを察した。
「さすがは次期国王になられるお方だ。寛大なご処置に感謝致します、サキ王子」
魔道士の若者がニヤリとする。
サキ王子はそれだけ告げると自室に戻っていった。
「この無礼者・・!そなたには王宮魔道士の除名を命ずる!」
まだ幼かったサキ王子を一般の騎士だった頃から見てきたライトは、サキ王子の胸中を思うと自分のことのように悲しくなった。
「うっ・・、くっ・・」
自室のドアをバタンと閉めたサキ王子は必死に涙をこらえた。
窓から見えるコーラルレイン王国は雨が降っている。
それはまるで、今の自分の心をうつしたかのように暗い空だった。
サキ王子は眠って忘れようと自室のベッドに向かった。
ベッドのカーテンを開けると、なぜか赤い髪の少女が倒れている。
「いけない・・!お掃除が・・!」
赤い髪の少女は目を覚ますとベッドからとび起きた。
その光景を目の前で見たサキ王子は、何がおきているのか理解できなかった。
「サ、サキ殿下・・?!」
とんでもない状況を王子に見られた赤い髪の少女は驚愕した。
「も、申しわけありません!私は王宮魔道士のフランシス・アリスベールと申します・・!本日はサキ殿下のお部屋のお掃除を担当していたのですが、緊張のあまり気がついたら意識を失っていました・・」
フランシスはまだ王宮魔道士としての位が低いため、魔法以外の仕事があったのだ。
位の高い王宮魔道士に昇格すれば、役割は魔法が専門となる。
「サキ殿下・・?」
フランシスはサキ王子が涙を流している姿を見てしまった。
これが、同い年である第1王子サキと王宮魔道士フランシスの出会いだった。
運命の歯車はこの時から動きはじめ、この5年後にミーティアとルーシェ、サキ王子とフランシスの4人の時間が重なっていくのであった。
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