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名前のない想い
「疲れていないか、ミーティア?」
「うん、大丈夫だよ」
コーラルレイン王国の国境を出たミーティアとルーシェは港町クラリスに向かって歩いていた。
ここは「幻想の森メヌエット」と呼ばれる場所で、コーラルレイン王国を出てしばらく歩くとこの森が見えてくるのである。
メヌエットから1番近い場所は森の東側にあるコーラルレイン王国で、少し距離はあるが西側の港町クラリスや北側と南側にある国にも通じる場所である。
時刻は深夜であり、そろそろ今夜の寝る場所を考えなくてはならない。
ルーシェは自分1人なら野宿でも構わなかったが、ミーティアは女の子だ。
どこか宿はないかと、先ほどからルーシェは探していた。
ルーシェは1日に1回はミーティアからの血が必要である。
先ほど応急処置として簡単に血を飲んではいるが、急いでいたため少量で済ませていた。
ルーシェが本来の吸血をしていないことをミーティアは心配していた。
「ルーシェ・・。私は野宿でも大丈夫だよ。それよりもルーシェの体調が心配なの・・。血が足りていないでしょ・・?」
「もう少しだけ探したい・・。ミーティアに野宿をさせるなんて俺は嫌だからな・・。心配で眠れない」
2人が深夜の森をしばらく歩いていると明かりの灯った小さな家が見えてきた。
ルーシェが確認すると「営業中」という看板が立っており、どうやら宿らしい。
コンコンとドアをノックをして中に入る。
「おや?こんな時間にお客さんとはめずらしいね」
扉を開けると初老の男性が受付のような場所で本を読んでいた。
「ここは宿で合っているか・・?」
「幻想の森メヌエットの中にある小さな宿さ。そろそろ赤字になりそうでね。もしかしたら、最後のお客さんだったりしてね」
宿屋の店主がいたずらっぽく言う。
「ここは受付だからね。部屋は隣にある建物だよ」
外で見た時にも宿泊部屋がある建物には明かりがついていなかったため、どうやらお客はルーシェとミーティアだけらしい。
「はい、鍵」
「ありがとう・・」
「ありがとうございます・・!」
店主から鍵を受け取ったミーティアとルーシェは部屋へと向かう。
「綺麗なお部屋だね!」
「そうだ・・、なっ・・!?」
喜ぶミーティアの隣でルーシェはかたまっていた。
「どうしたの?」
「宿に来るのは初めてだからな。想定外だった・・」
ルーシェは部屋に入った時に「ある事」に気づいたのだ。
「ベッドが・・、1つだとはな・・」
ミーティアはお風呂に入りながら今日の出来事を思い出していた。
エターナルの事は初めて知ったが、現時点でわかっていることをルーシェにも伝えなければと思ったのだ。
サキ王子から聞いた話ではエターナルは関わった者に「悲劇」をもたらすという。
もしも、エターナルの事を話してルーシェと一緒にいられなくなったらと思うとミーティアは不安になった。
だが、嫌われてしまうことよりもこれ以上ルーシェを巻き込んでしまう事の方が嫌だった。
ルーシェも部屋でお風呂の順番を待っている。
ミーティアは急いで浴槽から出た。
「ルーシェ、お風呂待たせてごめんね」
お風呂から出てきたミーティアは、吸血のために胸もとが大きく開いている服を着ている。
「テーブルに冷えたお茶を用意してある。あと・・、俺はソファーで寝るから安心してくれ・・!」
ルーシェはすでにソファーに移動しており、枕の代わりとなるクッションも用意済みであった。
「お茶、ありがとう」
ミーティアはルーシェが用意してくれたお茶を飲む。
お風呂から上がったあとの冷たいお茶はとても美味しくかんじた。
「俺も湯ぶねにつかるとしよう・・。ミーティアはゆっくりしていてくれ」
「ルーシェ!」
お風呂に向かうルーシェをミーティアが止める。
「どうした、ミーティア?」
「あ、あのね・・。お風呂から出たら話したい事があるの・・!」
「・・わかった。早く出てくるように努力する」
そう言いながらルーシェが微笑む。
いつもと変わらない優しい笑顔にミーティアはホッとした。
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