名前のない想い

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今、ミーティアはルーシェの腕の中にいる。 これからも隣にいてくれるというルーシェの言葉に安心したミーティアは涙もとまり、落ち着きを取り戻していた。 「ありがとう、ルーシェ・・。血、飲まなくて大丈夫・・?」 「たくさん歩いて疲れているだろう・・?無理はしなくていい」 どんな時も自分よりも相手を気づかうルーシェの優しさがミーティアは好きだった。 「私は大丈夫だよ・・!でも、今日はまだしっかり血を飲んでいないから、ルーシェのことが心配なの・・」 ミーティアはルーシェの手をにぎる。 「お願い・・、飲んで・・!」 ルーシェは16才からミーティアに血をもらってきたが、ミーティアにお願いされて血を飲むのは初めてだった。 自分の体調を心配して潤んでいる青い瞳に見つめられたルーシェは、胸の鼓動が早くなった。 「ありがとう、ミーティア・・。では、魔法からはじめよう」 ルーシェはいつもと同じように、ミーティアに痛みがないように魔法の呪文を唱えた。 ミーティアは血を飲んでいるルーシェの姿を見て、いつもと違うとかんじた。 まるで血が足りていないかのような余裕のない飲み方とその表情からは、辛さがうかがえる。 しかし、ルーシェはいつもの量を飲み終えるとミーティアの首から顔を離した。 「ルーシェ・・。なんか辛そうだよ・・?もっと飲んで大丈夫だよ」 あの時、ルーシェは泉の間でミーティアを助けるために大きな魔法を使った。 サキ王子は魔法使いの中でもトップクラスの魔法の実力を持っている。 そのサキ王子からミーティアを救うためには普段の魔法では敵わず、短剣を本来の姿である青い十字架の杖に戻したのだ。 それだけではなくルーシェは魔法陣も使った。 杖と魔法陣を使用して強力な魔法を使うということは、魔法使いにとって魔力も体力も大きく消耗する。 簡単な魔法であれば「物」を使わなくても呪文を唱えるだけで魔法を使用できるが、強力な魔法は物を使う必要がある。 それらは「魔法道具」とも呼ばれ、魔法使いによって異なる。 そのため、サキ王子は杖ではなく「指輪」を使っていたが、多くの魔法使いは「杖」を使用する。 ミーティアの前ではいつものように振る舞っていたが、本当はルーシェは疲れ切っていて吸血もいつもの量では足りないのだ。 「俺は大丈夫だ・・」 言葉ではそう言っていても、ルーシェの顔色は良くない。 「ダメだよ・・!」 ミーティアはルーシェを強く抱き寄せた。 「これからもルーシェと一緒にいたいの・・!だから、足りないのなら血はしっかり飲んで・・」 「だが・・」 「お願い・・!」 少し間をあけて、ルーシェはミーティアの瞳をまっすぐ見つめた。 「すまない、ミーティア・・」 「私を守ってくれてありがとう、ルーシェ・・」 ミーティアはルーシェの髪をなでた。 「えっ・・?」 ベッドに座っていたミーティアをルーシェが押し倒す。 「この姿勢でもいいか?」 「うん・・、いいけど・・?」 ルーシェは仰向けになっているミーティアの両腕をつかみ首に顔を近づけると、再び血を飲みはじめた。 ルーシェは教会で出会った頃の小さな「男の子」から大人の「男性」に成長したとミーティアはかんじた。 いつもと違う吸血、そして自宅ではない場所、そんな環境の変化もあり、ミーティアはよけいにそう思えたのだ。 それと同時に、自分の胸のときめきの理由がわからなかった。
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