名前のない想い

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十分に血を補給したルーシェは顔色も良くなっていた。 「大丈夫か?貧血のようなかんじはするか?」 「私は元気だよ!体もいつもどおりだから大丈夫!」 ミーティアは笑顔でそう答える。 「ルーシェ、髪が濡れているよ。乾かしてあげる!」 「乾かす・・?!」 すると、ミーティアがベッドの横にある机からドライヤーを持ってくる。 「濡れていたのか・・。ありがとう、乾かしてくる」 洗面所へ向かおうと立ち上がったルーシェの腕をミーティアが止めるようにつかんだ。 「ルーシェは疲れているんだから休んでて!私が乾かすから!」 ルーシェは気づかなかったがこの部屋はベッドの近くにもコンセントがあるのだ。 「小さい頃を思い出すな・・」 恥ずかしさと嬉しさに顔を赤くするルーシェだった。 「俺は外の空気を吸ってから眠ろうと思う・・。ミーティアは先に眠っていて大丈夫だ」 「うん・・」 ミーティアはベランダに向かうルーシェを見つめた。 一応、部屋の電気を消して横になるが眠れない。 ルーシェがいないと寂しいと思うのだ。 もちろん、今日のロア神殿での出来事で怖い思いをして不安だからという理由もある。 だが、それ以外の感情があった。 ベランダから戻ってきてもルーシェはソファーで寝る。 部屋が同じというだけで、あとはコーラルレイン王国での暮らしと変わらないのだ。 先ほどの胸のときめきといい、この気持ちは何なのだろうとミーティアは考えたが、答えは出なかった。 数分後、ルーシェが部屋に戻ってくる。 ルーシェは眠っているミーティアを起こさないように静かに歩き、ソファーへ向かった。 そして、ゆっくりとソファーに腰かける。 疲れてはいるが、ミーティアと一緒だと思うとドキドキして眠れないのだ。 外の空気を吸って落ち着かせたつもりだったが、それでもまだ心は落ち着いてくれない。 温かい飲み物でも飲めば眠気がおきるだろうかとルーシェは考える。 「ねぇ、ルーシェ・・」 「どうした、ミーティア。眠れないのか?」 「うん・・」 そう答えたものの、ミーティアの気持ちは「眠れない」というより「ルーシェを待っていた」という方が正しかった。 「ルーシェ・・。寂しいから一緒に寝てほしいの・・」 「俺は教会にいた時の小さい子供ではない・・。男だ。だから、一緒に眠ることはできない」 「どうしてもダメなの・・?」 ミーティアの瞳は潤んでいた。 「わかった・・。ミーティアを泣かせたいわけではない。ただ、ある程度の年齢の男女が一緒に眠ることに疑問をもっただけだ。夫婦なら問題ないとは思うがな・・」 「夫婦?!」 ルーシェの口から「夫婦」という言葉を聞いたミーティアは、驚きのあまり思わず心の声が出てしまう。 「ああ。夫婦であれば一緒に眠ることは普通だろう?」 ルーシェがベッドに近づく。 「隣に失礼する・・」 ルーシェはミーティアに背を向けた状態で横になった。 嬉しくなったミーティアはうしろからルーシェに抱きついた。 「同じシャンプーの香りがする・・!」 「そ、そうか・・」 自分の胸の鼓動の早さがミーティアに気づかれていないかルーシェは心配になる。 「今日は色んなことがあったよね・・。怖いこともいっぱいあったけど、ルーシェの顔を見れば安心して眠れそう・・。だから、こっちを向いてほしいの・・。ダメ・・?」 本当ははじめからミーティアの方を向きたかったが、さすがに恥ずかしくてルーシェにはできなかった。 だが、ミーティアが自分を頼ってくれていることにルーシェは喜びをかんじた。 「俺も、本当は・・」 ルーシェが姿勢を変えるとミーティアと視線がぶつかる。 「・・!」 想像以上にミーティアとの距離が近く、ルーシェは言葉を失った。 「ルーシェ・・」 ミーティアはルーシェに抱きつくとその胸に顔をうずめた。 そして、安心したミーティアはあっという間に眠ってしまった。 ルーシェは眠っているミーティアを起こさないようにそっと抱きしめる。 「おやすみ、ミーティア・・」 その想いを胸に秘めたまま、ルーシェはミーティアの額に口づけたのだった。
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