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動き出した時間
それは、ある日の午前中の出来事だった。
ミーティアは家のドアをノックする音が聞こえた。
どうやら誰かが訪ねてきたらしい。
今日はミーティアは休日だがルーシェは魔法の仕事で出かけている。
ミーティアがコンコンとノックされたドアを開けると1人の男性が立っていた。
身分の高そうな騎士のような見た目をしている。
「ミーティア・オブリージュ殿でお間違いないでしょうか?」
「はい・・。ミーティア・オブリージュと申します・・」
ミーティアが緊張しながら答える。
「突然の訪問をお詫び致します。私はコーラルレイン王国、第1王子であらせられるサキ殿下の使者として参りましたライトと申します。ミーティア殿には至急ロア神殿にお越しいただきたいのですが、ご同行願えますか?」
ロア神殿はアリアの街に古くからある建物であり、コーラルレイン王国の特別な場所の1つでもある。
今、ミーティアの自宅の前には目の前にいる王子の使者ライトが乗っていたと思われる馬車がとまっている。
恐らく、この馬車でロア神殿に向かうのだろう。
「はい・・。今日は休日ですのでロア神殿へ行くことは大丈夫ですが、第1王子殿下が私のような者にどのようなご用でしょうか・・?」
ミーティアは王族との関わりなどはない一般人である。
魔法が使える人間なら国の催し物などで王族と関わる事もあるかもしれないが、ミーティアは魔法が使えない。
「申し訳ないのですが、私はサキ殿下の使者として伺っただけですので詳しい事はわからないのです・・。殿下はミーティア殿にお話があるとの事でした。ロア神殿までは徒歩ではなく、私のうしろにあります馬車で向かいますのでご安心ください」
今のところ理由はわからないが、第1王子から直々に話があるというのならば一般人であるミーティアは行くしかない。
「わかりました・・。では、ロア神殿までお願いします・・」
そう言って、不安な気持ちを抱えながらミーティアは馬車に乗った。
「シュピッツ殿、本日も助かりました。また、お願いしますね」
ロア神殿の巫女がルーシェに礼を言う。
「また、来ることもあると思う・・。その時はよろしくお願いしたい・・。では巫女殿、失礼する・・」
幼い頃にミーティアと友達になってから心の氷がとけたとはいっても、ルーシェは人と話すことは苦手であった。
幼いルーシェは教会のシスターにもヴァンパイアである事は告げておらず、ルーシェがヴァンパイアである事を知っているのは亡くなった両親とミーティアだけである。
ルーシェもミーティアと同じように両親のことはあまり覚えていないが、ヴァンパイアとしての生き方を教わった事だけは覚えていた。
今日はミーティアは休日だが、ルーシェは魔法の仕事でロア神殿を訪れていた。
魔法を使う行事の際にはロア神殿に仕事で来ることが多い。
仕事が終わり巫女に挨拶を済ませたルーシェは、ロア神殿の出入り口である門へ向かって歩きだす。
すると、馬車が入ってきた。
ルーシェは馬車の邪魔にならないように端に寄った。
少しの間ではあるが、馬車が移動するまで待たなければ門を通れない。
ロア神殿に仕事で来る事は多くても馬車を見かける機会はあまりないため、珍しいことだとルーシェは思った。
馬車を使ってロア神殿に来るような人は王族などの身分の高い人である。
今日は王族でも来ているのだろうかとルーシェが考えていると、馬車の中から人が出てきた。
身分の高い令嬢か王女と思わしき女性が馬車から降りてくる。
長く美しい青い髪にブルーのワンピースを着ている。
ルーシェはその女性に見覚えがあった。
ルーシェの初恋の人であり、今日は休日で自宅にいるはずのサファイアの瞳をした女性を、ルーシェが見間違えるはずはなかった。
「ミーティア・・?!」
馬車の中からあらわれた最愛の人を見たルーシェは驚愕した。
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