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馬車から降りたミーティアはロア神殿内にある「泉の間」と呼ばれる場所に案内された。
「泉の間」というだけあって、綺麗な噴水や人工的に作られた滝などがいくつもある部屋だった。
ミーティアが泉の間に入ると1人の青年が1番大きい噴水の前で悲しげな顔をして立っていた。
緑色の瞳にセミロングの茶色い髪を低い位置で1つに結んでいて、上下とも白い服装である。
見た目だけなら貴族などの高い身分の人間と思えたかもしれないが、その青年の白いマントにはコーラルレイン王国の王族の証である紋章が描かれていた。
ミーティアが部屋に入ったことに気づいた青年が振り向く。
「話すのは初めてだね・・。私はコーラルレイン王国、第1王子のサキ・コーラルレインだ。突然呼び出してすまなかったね、ミーティア・オブリージュ」
ミーティアは初めて見る本物の王族の姿に緊張が増すと同時にサキ王子の言葉に違和感を覚えた。
「話す事は初めて」という言葉からはまるで「会ったことはある」という風に聞こえるのだ。
「ミーティア・オブリージュと申します・・!お初にお目にかかります、サキ王子・・」
王族への挨拶などした事がないミーティアはこれで合っているのかと心配になる。
「君に用があったのは話をするためでね・・。立ち話もなんだ。座って話そうか」
サキ王子の話し方や態度から、ミーティアは自分がよくは思われていないと察した。
例えるのならば、それは「冷たい氷」のようなイメージだったのだ。
サキ王子は国民のあいだでは「微笑みの王子」と呼ばれるほどの優しい笑顔で有名な王子だ。
20歳という若さでありながら、とてもしっかりした性格で魔法の才能も高く、次期コーラルレイン国王にふさわしいと国民からの支持も強い。
だがそんな話とは違い、実際のサキ王子は優しい口調ではあるがミーティアへの態度は冷たいものであった。
「微笑みの王子」の異名がまるで嘘のようにずっと真顔で話している。
「真顔」といっても真面目な表情というより、「怖い」もしくは「深刻」といった方が近いだろう。
ミーティアはなにか王子の機嫌を損ねてしまったのかと不安になってしまった。
自分の振る舞い、言動、マナー、泉の間に入ってからの全てを頭の中で思い出すがどれが原因なのかわからない。
「では本題に入ろう。ミーティア・オブリージュ、私が話したかったことは君の黒いペンダントについてだよ」
「・・!」
ミーティアはルーシェしか知らないはずのペンダントの事をなぜサキ王子が知っているのかが分からず、驚きのあまり一瞬言葉が出てこなかった。
「サ・・、サキ王子は、なぜ、私のペンダントの事を知っているのですか・・?」
ミーティアの声が震える。
「その黒いペンダントの名前はエターナルと言ってね。とてつもなく大きな魔力を秘めているんだ。しかし、あまりにも魔力が強すぎるゆえに、エターナルは関わった者に永遠の愛と悲劇をもたらすと言われている・・」
サキ王子はどこか寂しそうな顔をして目を閉じる。
「エターナル・・?魔力・・、悲劇・・?」
ミーティアは初めて聞いたペンダントの名前よりも「悲劇」という言葉が引っかかった。
教会を出ていく時のシスターの言葉がよみがえる。
「ミーティア。その黒いペンダントはあなたのお母様の形見なのです・・。これからも大事に持っているのですよ。きっと、そのペンダントがミーティアを守ってくれるはずですから・・」
サキ王子は目を開けると話をつづけた。
「私はある人からエターナルの事を聞いてね。その人のために君のエターナルが必要なんだ。だから・・」
座っていたサキ王子が立ち上がる。
「今すぐ私にエターナルを渡しなさい・・!」
サキ王子のにらみつけるような冷たく鋭い視線にミーティアは恐怖で動けなくなった。
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