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ロア神殿の入口で馬車から降りてきたミーティアを見つけたルーシェは、嫌な予感がしてこっそりあとをつけた。
ミーティアを案内していた男のマントには王家の騎士の証である三日月のマークがついていた。
隊長などの役職がある人間の可能性が高いとルーシェは思った。
もしも、ミーティアが王族に呼ばれていたとしたらなぜそんな事になったのかルーシェにはわからない。
ルーシェが心配しているとミーティアは「泉の間」に入っていった。
「泉の間・・!?」
泉の間は王族のみ使うことができる特別な部屋であるため、一般人は基本的に立入禁止である。
王族がお忍びで街に来た時の休憩場所や、行事でロア神殿に来た際の部屋として使われる事が多い。
誰かまではわからないが、ミーティアを呼び出したのが王族であることは間違いなさそうだ。
ルーシェは泉の間が見える位置にある木に隠れて様子を見ることにした。
泉の間の周囲は何人かの騎士達がいてうかつには近づけない。
ルーシェは腰元の短剣を見つめて、ある「印」の確認をする。
16才になって吸血が必要になったヴァンパイアは、異性の人間と吸血の「契約」をする。
初めて血をもらったあとに、ヴァンパイアは契約の証である白い十字架のマークをいつも身につける物など、よく目にするところにつけなくてはいけない。
十字架のマークは契約相手の人間に危険がせまった時など、なにかよくない事が起きた時に消えてしまう。
ヴァンパイアの寿命は人間と変わらないが、生きるために血が必要なヴァンパイアは契約相手が亡くなったりした際に困らないように、この十字架のマークをつけなければならないと言われている。
契約相手に危険がせまっている事がわかれば、助けに行くこともできる。
しかし、契約相手の人間が何かしらの理由で最悪の場合亡くなった時は、新しい契約相手を見つけなければ生きてはいけない。
ヴァンパイアの性格にもよるが、新しい契約相手を見つけて生きる者もいれば、新しい契約相手を見つけずに寿命を迎えるヴァンパイアもいる。
新しい契約相手を見つけないヴァンパイアは、亡くなった人間に「特別な感情」を抱いていた者が多い。
ルーシェは不安になり短剣につけた白い十字架のマークを念のために確認したが、それはルーシェが1番見たくない結果になっていた。
短剣の十字架が「消えている」のだ。
ミーティアによくない事が起きていることがわかったルーシェは泉の間に入る決心をする。
だが、泉の間は数人の騎士達が守っているため近づく事が難しい状況だ。
何か騎士達の注意をそらそうとルーシェは考えた。
泉の間の近くにはルーシェが隠れている木の他にも何本か木が植えてある。
ルーシェは魔法で風をおこし、自分の位置から1番遠い場所にある木を大きく揺らした。
「ライト隊長!木が大きく揺れています!」
「・・自然な揺れ方ではないな。確認するぞ」
ルーシェの予想通り、隊長と呼ばれたのは三日月のマークの男であった。
護衛の人数が少なくなったためルーシェはすきをついて泉の間に近づいたが、見えない壁がルーシェの歩みを止める。
「結界だと・・!?」
「結界」は防御魔法の1つであり、これを王族が使うということはコーラルレイン王国では厳重警戒という扱いになる。
基本的に王族の警備は護衛の騎士達がつとめるが、「結界」は騎士の護衛では足りない重要な時に使うものであり、ミーティアはその重要な話に呼ばれたことになる。
さらに、ルーシェは「結界」とは別の違う魔法が使われていることもかんじた。
「おい!そこで何をしている!」
三日月のマークの男の部下と思われる騎士が、ルーシェを見つけて声をあらげる。
ルーシェは結界がはってある事に動揺し、判断が鈍くなっていたのだ。
しかし、護衛に見つかってしまった以上は自分の状況を説明するしかない。
「俺の大切な人が泉の間に呼ばれた理由を知りたいのだが、なにか知っているか・・?」
ミーティアが心配でついて来たのは事実だが護衛の人間からしたら、ルーシェは泉の間にいる王族に何かしようとした怪しい人物だと疑われてしまうだろう。
「我々は王家の護衛の騎士だ。話を聞かせてもらおうか・・。護衛第2部隊!泉の間への侵入者を捕らえよ!」
「・・ミーティア!」
泉の間の外ではルーシェに危機が訪れていた。
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