雪ん子の おん返し

8/10
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「は?」 「どうして赤い光を見たら知らんフリしろと教えてきたと思ってるんだ」 「対処できないから、だっけ」  これは俺が小さい時に疑問に思って聞いたことだ。どうして見ないふり、気がついていないふりをするのか。その場から走って逃げるんじゃダメなのかと聞いたらバカタレと言われたっけ。  雪の妖怪に、雪に囲まれた場所で走って逃げられるわけない。気づいたと気づかせる事は命に関わる。気づいていないふりが一番良い。 「人じゃないものに人の常識が通用するか。お前、冬眠せずに餌を探してるヒグマに食べ物を与えたらお礼を言いに来るとでも思うか」 「いや。人は餌を持ってる、何なら人が餌になるって学んで人里に降りてくるよな」 「そうだ。物事っていうのはな、人間の思い通りにはいかないものだ。妖怪が恩返し? そんなことするわけないだろ。妖怪じゃないなら不幸な事故が続いただけだ、ほっとけ」  ほっとくわけにもいかないんだけど。一度この説教モードに入るとじいちゃんはこっちの話を聞いてくれない。俺はわかったよと言って電話を切った。  雪の妖怪か。じいちゃんたちがしてくれた昔話でも、雪の妖怪はよく出てきた。言い伝えとか、いろんな種類があったと思うけど。 「そういや、なんかわらべ歌みたいなのもあったな」  交換しましょう、交換しましょう、ってやつ。幼稚園くらいのめちゃくちゃ小さい時にそんな歌を歌った気がする。 あのこはおはぎ どう? どう? こうかんしましょう こうかんしましょう あのこかいな あのこかしら  この歌まあまあ意味不明だよな。おはぎを交換しましょうって言ってるのに、あの子か? という疑問を投げかけている。このおはぎはどう? とかならわかるが。 「ただいまー。みてみて、すっごいでしょこれ!」  パートから帰った母がジャーン! と言いながら見せたのはまるまる一匹のブリだった。 「安かったの、今日はブリしゃぶにしようと思って。カマ焼いてあげようか?」 「やった、カマって一番美味いとこ……」  その会話をした時俺は背筋が凍るかと思った。急いでスマホ立ち上げて三人が死んだという日を検索する。三人が死んだのは二十四節気の大雪、冬至、小寒。冬の代表日、雪の妖怪がきっと一番強い時。あと、大寒が残ってる。……今日じゃないか!? 急いで紀江に電話した。 「どうしたの?」 「今すぐそこから逃げろ、次はお前の番だ!」 「何言ってるの? どうして私が」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!