誘惑

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誘惑

「君のこと好きだったって言ったら、旦那と別れてくれる?」  久しぶりに会う彼が甘く囁く。私は艶を失った自分の指先を見た。 「いいえ」  脳裏に浮かぶのは、私が小学生の頃亡くなった祖父の枕元に立つ彼の姿。  何も知らない頃は憧れたし好きだったこともある。  でも、夫は癌の闘病中であなたは死神だから。
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