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「皆さま、ただいま前方に〈エアポケット〉が発生しております。突入いたしますと大変危険ですのでシートベルトを腰の低い位置でしっかりとお締めください」
羽田発、福岡行の直行便。出発から四十分くらいたった頃。
ポーンッ、という電子音の後に聞きなれないアナウンスが機内に響き渡った。
エアポケットというのは乱気流によって飛行機が激しく揺れてしまう現象を指しているはず、アナウンスのように直前で伝えるものではない。
さらに肝心な揺れについての言及も無いのも不自然。一体どういうことだ?
周りを見渡すと私同様、数人不思議そうに周りを見渡している。しかし何名か明るい表情でシートベルを占めていた。中には小躍りしそうなくらいにこやかな笑顔をしている者までいるではないか、余計に状況が呑み込めない。
「若いの、もしや〈エアポケット〉は初めてかな」
一つ開けて隣に座るサンタのような、真っ白な髭でふくよかな体形の男性が話しかけてきた。
やけににこやかな表情で私を見つめてくる。目がおもちゃを前にした少年のように輝いているのが逆に不安に感じてしまう。
「はい、おそらくそうだと思います」
「心配することは無いよ、ベルトを締めていればいつもの安心安全快適な空の旅だ」
これから何が起きるのか、肝心なことを教えてくれない。こんな人にはならないようにしよう。
「ホントに大丈夫なんですか……」
「そろそろだ、まずはしっかりつかまってなさい」
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