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森の中
ずっと、同じ森の中。東、西、南、北。丁寧に見渡してみて、どこを見ても同じ景色。気が狂いそうな程同じ景色。ずっとずっと無心で歩いてきた、考えることはしなかった。その証拠に、枝や葉っぱでついた無数の切り傷のある脚を引きずりながら、来た道を示すように靴で線を描きながら歩く。
辺りに動物はいない、風の音ひとつしない。今でもどうして辿りついたか分からない森の中。無知は僕を救ってくれた。
きっと今の僕では、恐怖も絶望も知った僕では再び脚をあげることはなかったと思う。
”気づき”とはそれほどまでに人を弱めるものなのだと知った。
いつまでも自分の足音だけを聴きながら、はじめてちゃんと考えた。ぼくは、なんで迷子なのか。いつから迷子だったのか。考えてみてやっと、ぼくは自分を何も知らないことに気づいた。
そういえば、こんなに頑張って歩いているのに、どこへ向かえばいいのか分からない。わからない。僕の、家の形も、灯りの色も。
生まれてはじめて脚を止めて、堪え切れない莫大な負の感情に恐怖した。
確かひたすらに帰れないと困ることだけを考え続けていた。言うなれば僕は帰る為に生きている。あの時僕は人間の構造に涙というのが備わっていることを知った。感情を体現するかの様な温かい雨は、どれほど流せど誰も助けてはくれず、無慈悲なものだと察したことを覚えている。これまで耐えられたことが耐えられなくなり、生きていくことが苦しくなった。それでも明日は、歩かないと訪れなかったから。
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