ポケットの中に世界があふれてる

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 「青空」   「ひろい」。  「雲」   「やわらかい」。  言葉は、世界。  言葉をつなげることは、この世界をつなぐこと。  そうだといいな。  そう思う。  だから僕は、言葉をつなげる。  ポケットの中から、僕の世界を取り出して。  短歌との出会いは、夏休みだった。中三の、夏休み。  友だちはみんな塾の夏期講習に行くことにしたらしい。一人ヒマな僕は、家でテレビをつけっぱなしにしてゲームをしていた。  プレイが一段落して、ため息をつく。またレベルが上がってしまった。ゲーム内の人生は、計画通り、順調そのもの。でも本物の僕は、リビングの一角から一センチも動かない。「こうげき」どころか、「みをまもる」一択の夏休みなのだった。  だけど、さすがに一日中ゲームは疲れる。目を休めたくなって、ふと顔を上げた。  テレビの中では、高校生が大喜利をしていた。小洒落た制服にカーディガンやベストを合わせて。髪は明るくキャラメル色で。テレビの中の高校生は、僕と最大で三歳も違うとは考えられないくらい、成長して大人びて見えた。
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