電話

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電話

「も、もしもし!」 『……やっと出たか』 「ガ、ガラン……!」  電話の相手は、ガランだった。思わず声をあげてしまう。  まさかあの窮地を助けてくれたのはガランだとは。一度ならず二度までもガランが助けてくれると思わなかった。  安心で全身の力がどっと抜ける感覚がする。 「あ、ありがとうごさまいます」 『はあ?』  思わずでた感謝の言葉をガランは意味がわからないというように返した。  むしろ、電話の向こうから怒気すら感じる。レンは慌てて言葉を返す。 「み、店の掃除をしていたらしつこいセールスが来て。あなたの電話のお陰で助かりました」 『……それが、俺が起きたらお前がいなかった理由か?』 「違います!」  レンは慌てて否定する。  理由を喋ろうとしたが、夜に部屋を物色して隠し棚の本にいた貴方を見たなんて言えない。  レンは必死に言い訳を探した。 「お、親から、すぐ施設に来て欲しいと頼まれたんです。それで、家に帰らなきゃ行けなくて」 『だったら、書き置きくらい残すべきだったんじゃないのか? 携帯も繋がらねぇし』 「す、すみません。本当に急いでて。着いてからもずっと忙しくて……、携帯の電源切れていたのを気づきませんでした。ようやく落ち着いて、眠ろうにも眠れないから、店の掃除をしようと思って……」 『……』  沈黙が流れる。やはり怪しまれたか。  ガランはレンの親が施設の運営者だと知っているし、過去緊急の要件で会う約束を取りやめたりもしたことはあったから、騙されてくれるかと思ったが、やはり書き置きも無しに家に帰り、携帯も通じないとなれば怪しむのが当たり前だろう。  レンは意を決して口を開く。 「ガラン、その……」 『……次から、俺に言ってからにしてくれ。叩き起しても構わないから」 「す、すみません」 『それと、車、お前のことだからタクシーとか使ったんだろうが、今度からホテルの奴に頼め』 「で、でも」 『もう、何も言わずに消えるな』  レンの言葉はガランの縋り付くような声によって遮られる。  その声はあまりにも弱々しく、悲しげだ。  本に写っていた幼き頃の彼の姿が脳裏にちらついた。 「……わかりました。すみません」 『土曜は大丈夫か?』 「土曜?」 『買い物に付き合えって言っていただろう』 「…… あっ」  そうだ。たしかに土曜は買い物の予定があり、レンはガランに付き添いを頼んでいた。  だが、あんなことがあったきりだ。ここは無理そうだと言った方がいいかもしれない。  だが、急に会わなくなり恨みを買われたくはない。  それに約束は約束だ。破るのも良くは無いだろう。  レンは少しの逡巡の末、電話の向こうのガランに頷く。 「……わかりました。はい、大丈夫です」  これっきり。  レンはそう思い、電話の向こうのガランに頷いた。 『わかった。また、連絡する』 「はい」  そう言って、ガランからの通話は切れた。  レンは受話器を見つめる。  ガランが分からない。全部だ。  それを解決できる日は来るのだろうか。  それよりも自分はあのガランときちんと別れを告げられるのかーー。  裏口に目をやる。男はもう居なくなったようでドアを叩く音はもうしない。  だが、隠れている可能性も十分にある。レンは溜息をつきながら、911を押した。
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