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体を叩く雨音
ぼんやりとした頭でレンはベッドから起き上がり、用意された水を口に含む。
雨は未だ降り続き、屋根が吹き飛ばされるのではと思ってしまうほどの強風も健在だ。
レンは隣にいるガランに目をやる。
整った目鼻立ちは規則正しい寝息を立てている。
念の為、手をかざしてみても反応する様子もないことから、かなりの熟睡をしているのだろう。
レンはその寝ているガランの口元に1つ口付けを交わす。
乾いたその感触は柔らかい。だが、ザラりとした感覚がほんの僅かに感じた。
「ん……」
小さく息をこぼし、ガランはレンの方に寝返りをうつ。
起きる気配はなさそうだ。レンはその寝顔を眺めながら、まだ気怠さが残る体を動かし、ベッドの下に無造作に脱ぎ捨てられたガランの靴を履いた。
レンのものよりも一回り大きいサイズの靴。
歩きづらいが、裸足で歩くよりはまだマシだ。
レンはガランを起こさないよう、ガランの体をまたぎベッドのすぐ側にある窓に手をかける。
音を立てぬように窓を開けるとすぐさま、強風と雨がレンの顔を叩いた。
「っ!」
ガランにかからぬよう、毛布をかけ直す。
そのままレンは前々から見つけていた窓格子のネジの緩み部分に勢いよく蹴った
鈍い音をたてると同時にネジは落ちる。
レンは開いた格子と窓の隙間に体をねじ込ませようとするが、レンの体が入るほどの広さは開かなかった。
「……っ」
レンは下唇を噛む。
やはり、外に出させて貰えないので力も落ちていたのだろう。
もう一度蹴ってみるが、やはり隙間はこれ以上広くはならない。
一か八かで体をねじ込んで見るか。いや、それで抜けられなくなったらレンはガランが起きるまで体を雨に晒してしまう。
同時にレンが逃亡を企てたとバレたらレンは助けがくるまでさらなる不自由の中生活をしなければならない。
それだけは避けたい。
レンはもう一度、他の格子を止めている場所を確認するが、緩んでいるのは外れたところだけで今ここにはネジや釘など、レンが使えるものは一切ない。
どうする。早く決めなければガランがーー。
焦りのあまり周囲になにか使えるものは無いかと探すと、枕元にガランが被っている黒猫の面が見えた。
その面の素材が薄い鉄のようなものでできているのを知っている。ある程度落としても形状が変わらないようになっているのだ。
レンはガランの面を手に取り、渾身の力で面を格子の隙間に差し込んだ。
「!!」
レンは目を開く。面を噛ませたおかげでそれなりの幅が開いた。レンの体格を考えればまだ厳しいだろうが、希望が見える。
レンはすぐさま、面が落ちてしまわないようにその端を手で強く抑えながら体をその隙間に入れていく。
監禁生活のせいか体は痩せていた。懸念していた部分もすり抜けることができ、レンは格子から抜け出すことが出来た。
「っ!」
しかし、想定よりも地面との距離は遠く、レンの体はぶらりと宙に浮く。
その際に強風がレンの体を叩き、壁に強い力で叩きつけられた。
「――!」
背中の痛みをこらえながらレンは面を下にみる。今、レンの体を支えているのは格子を掴む手だ。
だが、それも限界だ。
手が滑り、良くない場所に落ちる前にレンは覚悟を決め、手を離した。
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