歩きスマホと注意した人と第三者

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「おいお前!歩きながらスマートフォンをするな!」 辺りに響いたのは1人の老人の声。そして目の前には1人の普通の若者。老人は大層怒っていたが、若者はどうでもいいと無感情な顔をしていた。 「全く・・・」 このまま終わればたまにあるような日常の一面で済んだだろう。しかし今回はそこにもう1人。男が割って入ってきた人。 「はははは!バカみてえ!」 明らかにあざ笑われた老人はその男に目を向けた。一方注意された方の男は相変わらず無表情だった。 「なんじゃお前!何がおかしい!」 問われた第三者はまず若者に聞いた。 「なあお前。お前はなんで歩きスマホをやっても、それを注意されても動じないんだ?」 黙っていた若者は仕方ないとやっと喋った。 「人間なんてどうでもいいと思っているからだ。俺は誰がどうなろうがどうでもいい。誰に迷惑かけようがどうでもいい。だからなんとも思わない」 それを聞いて先に喋ったのは老人だった。 「お前!なんでそんなことを平然と思えるんだ!」 説教が続きそうな流れだったが、第三者の質問がそれを止めた。 「なあじいさん。お前の注意は常識的に考えて正しいと思う。だが、なぜそれを通りすがりの人にしたんだ?息子や孫じゃないのに」 間髪入れずに反論が出た。 「なにバカなことを言っとるんじゃ!たとえ他人でも間違ってることは注意すべきじゃろう!」 第三者も間髪入れずに反論が出た。表情は違っていてヘラヘラしていたが。 「じゃあ聞くが、こいつが明らかに物騒な見た目。例えば髪型がすげえ奇抜で色も奇抜で、至る所にピアス開けてたり。あるいはすげえ筋肉ムキムキだったり。それでも注意したか?」 今度は反論が出なかった。沈黙し、どう返すか考えているように見えた。だが第三者が急所を踏み抜く方が早かった。 「別に言い訳しなくて大丈夫さ。あんたこの男なら何したってどうでもいいと。こちらに害は来ないと。そう思えたから言葉にしたんだろ。誰でもわかるよこのくらい。みんな同じだろうからな。」 老人の沈黙がさらに重くなった。もう言い返せないだろう。 「つまりじいさんも、他人がどうなろうがどうでもいいからこんなことができたんじゃないか?」 「い、いや・・・」 慌てて老人が否定しようとするが、あまりにも弱かった。 「だからおかしくて笑っちまったんだよ。そこの若者も。じいさんも。根本にあるのは似たようなものなのに。まるで善人と悪人に分かれるような状況だったんだからな。皮肉で滑稽で笑ったんだよ。ははははは!」 老人は今度は放心したような顔で俯いた。おそらくは自分に違う違うと心で言い訳するために。一方若者は相変わらず無表情のままだった。 「・・・もう面白いことは起きないか。さて。さっさと買い物してくるかな」 第三者は、何かを捨てた時のようにスタスタと振り返ることもせずに去っていった。若者も「もういいか」という感じでスタスタ歩いて去っていった。取り残された老人は、相変わらず自問自答を繰り返すだけだった。
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