ぶきっちょあがり症

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ぶきっちょあがり症

 そもそも、ぼくがピアノなんて、そのことそのものが、まちがっているんだ。  ぶきっちょで、すぐキンチョーしちゃう。ピアノきょうしつでも、みんなのまえでエンソウさせられると、先生が、 「平太くん作曲の曲でした」  なんて、おちゃらけるぐらい。  だから、ピアノきょうしつはる休みはっぴょう会が、ユウウツでユウウツで、しかたないんだよ、ぼくは。  なん日かねた。  ついに、はっぴょう会の日がきた。  ぼくのじゅんばんは、三ばんめ。へたなせいとは、まぎらしちゃえ、っていう先生の気もちがみえみえ。  ぼくは、キンチョーしていた。それは、ものすごく。口はかわき、手足はふるえ、もちろんピアノのエンソウなんて、できるじょうたいじゃない。  もうすぐ。  もうすぐ。  じゅんばんがきた!  先生がいった。 「さあ。次は二年生、斉藤平太くんの演奏です。はりきってどうぞ」  ぼくは、〈ねこふんじゃった〉をひかなければならない。  足ガクガク、ひやあせタラタラ、のぼせちゃって、カーとあたまがあつくなっている。  やっとのおもいで、ピアノのまえにすわった。  キンチョー。どキンチョー。もうだめ。しにそう。とにかく、はやくはやくおわらせなきゃ!  ぼくは、ピアノのけんばんをひっしにおす。もう、わけわかんない。ひっしにひっしにゆびをうごかすけど、音もきこえず、目もみえない。  ああ。ああ。  じかんかんかくも、わからない。どのくらい、たったんだろう。なにも、きこえない。もう、あたまの中はシッチャカメッチャカ。とにかく、メロディをはずしていることはたしかで、きょくのどこまですすんでいるかわからないこともたしかで、「うわーっ」とさけびたくなるきもちをこらえ、むがむちゅうで、ふるえこわばるうでと手をうごかしつづけた。  ずいぶん、長いじかんがたったような気がする。  もう、いいだろう。  ぼくは、エンソウをおえた。  こわごわ、みんなや先生や今日きてくれたおきゃくさんをみる。  みんな、口をポカンとあけている。あきれているのだろう。それも、しかたない。あんな、でたらめなエンソウをきかされたんだから。 「素晴らしいいい!」  おきゃくさんの一人がさけんだ。  とつぜんわきおこるみんなの大はくしゅ。  なんだ。どうした。ぼくをからかっているの?  先生がさけんだ。 「どうしたのよ平太くん!能ある鷹は爪を隠すね!どんな世界一流のピアニストでも真似できないわ。  あそこまで完璧な〈白鳥の湖〉を弾くことは!」
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