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────「大丈夫? 藤代さん」
「はい……」
楽しすぎて、美味しすぎて、ついつい飲み過ぎてしまった。
クラクラして、頭を上げると目眩がする。
「帰れる? 今、タクシー呼ぶから」
スマートにタクシーを呼んでくれようとする土屋さん。
夢のような一時が終わると思うと寂しくて、もう二度とこうして話せないことに名残惜しさが募る。
……もう少しだけ、一緒に居たい。
あと一軒、付き合ってもらえないかな?
「土屋さん……」
「何?」
顔を覗き込む彼を見上げ、酔った勢いで懇願する。
「もう少しだけ、一緒に……」
微かに彼の顔が赤らんだ気がした。
ふらりと力が抜ける私を支えてくれる土屋さん。
「……帰りたくない」
どこか、遅くまでやっているお店に。
ふいに彼の顔が近づき、ドキッと心臓が弾む。
「そういうこと、他の人にも言ってるの?」
耳元で囁かれ、ゾクゾクして鳥肌が立つ。
「はい」
またそんな噓をついてしまう。
だって私は今、ホステスの設定だし。
今日だけは、別人になりきって大胆に生きたい。
自分を見失うほどの恋を。
それが私の夢だったから。
「わっ……」
突然力強く肩を抱かれ変な声が出る。
「……じゃあ、どこか泊まる?」
思ってもみなかった言葉に絶句し、心臓が爆発するかと思った。
一気に酔いが冷める。
私今、きっと相当間抜けな顔してる。
泊まるって、そういう意味?
恋愛初心者の私にだって、いくらなんでもわかる。
予想外の展開に、冷や汗が滲みながら口を大きく開けているしかなかった。
「ごめん。違った?」
私の反応に困惑した表情の土屋さん。
「やっぱり帰ろうか」
そう苦笑して私から離れる。
途端にまた寂しさが込み上げた。
腹を括れ。
そんな天啓が降りてくる。
こんなチャンス、もう二度とないぞと。
「違いません!」
「え……」
拳を握りしめ、震える声を振り絞る。
「一緒に泊まって……」
このままこの恋を終わらせられない。
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