歯並びに一目惚れ

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 平日だからなのか、駅前のシティホテルは予約なしでもチェックインできた。  ツインも空いていたのに、土屋さんはさり気なくダブルの方を指定していたので、益々緊張は高ぶる。 「大丈夫?」  それって体調のこと? それともこの状況について?  ドキドキが抑えられないまま、全く大丈夫ではないのに「大丈夫です」と返事をする。  土屋さんはどこまでも落ち着いていて、部屋に向かう時もフラフラな私を支えてくれる。  ……やっぱり土屋さん、こういう夜に慣れてるんだろうか。  私以外の女性とも一夜を? 「あの……土屋さん」  カードをかざし、ドアを開けてくれる土屋さん。  だけど私は玄関で立ち竦んで、ベッドルームに入らない。 「今更ですが、彼女いませんか?」  土屋さんがそんな不誠実な人なんて思いたくないけど、万が一にも不徳なことはしたくない。  彼はくすりと笑った。 「いないよ」 「こんなに素敵な人なのに?」  土屋さんはもっと笑う。 「ありがとう。ホントに。いない」 「そうですか……」 「愛美ちゃんこそ、キャバクラに勤めてるのに随分潔癖だね」  ギクリとすると共に、急に名前呼びになっていることに焦る。  土屋さんが、私の名前を! 「あ、えっと……トラブルになりたくないんで」 「ふーん……」  どこか疑うような目の土屋さんに、慌てて取り繕う。 「わ、私、割り切った関係が好きなの! 恋愛とか面倒くさいし。フリーの人と一夜限りって気が楽でしょ?」  全くの噓です!  本当はめちゃくちゃ土屋さんに恋してます!  ああ、余計なことを言ってしまった。  このままじゃ、土屋さんとの関係も一夜で終わってしまう。  だけどずっと好きだったなんて言ったら、引かれてしまう可能性も……。 「……今までも、他の男に一夜の関係を許したの?」  突然土屋さんは、少し怒りが混じっているともとれる真剣な目つきになった。  そんな彼に圧倒されて、思わずコクリと頷く。  その瞬間、力強く抱き締められた。 「土屋さん!?」  ま、まだ、心の準備が! 「……じゃあ、俺との夜は割り切れなくさせるね」 「え……」  すぐに重なった唇。  まだ衝撃に頭も心も追いつかない。  土屋さんと、キスを。 「ん……」  生まれて初めてのキスにしては、あまりにも濃厚で刺激が強すぎる。  何度も唇を重ねて、段々と深くなる。  今までずっと心を奪われていた彼の口内に触れているなんて、まだ夢心地で信じられなかった。  熱くて気持ち良い。  立っていられない。  次第に足はガクガクと震え始め、長いキスを終えたころには力が抜けてふらりと彼に身体を預けた。  
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