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次の水曜日。また新宿のお店で食事をすると思っていたけれど、彼が案内してくれたのは別の場所だった。
都内にある、ラグジュアリーなホテルの最上階。
窓一面に広がる夜景に息を飲み、自分には場違いな空間に物怖じする。
「ここの鉄板焼き、凄く美味しいから。愛美ちゃんに食べさせたかったんだ」
相反して土屋さんはとてもこの場所に馴染んでいて、自然に私の椅子を引きエスコートしてくれる。
「ありがとう……ございます」
笑顔に大人の余裕が溢れてる。
やっぱり素敵な人。
ぽーっと見惚れている途中で我に返り、食い気味に彼に迫る。
「つ、土屋さん! 今日は私が御馳走しますからね!」
こういう話は最初が肝心だ!
酔ってわけがわからなくなる前に。
先週の食事代もホテル代も、結局土屋さんに支払わせてしまった。
「先週のお礼です!」
そう言ってメニューを見た瞬間、桁の違いに目眩がした。
予想はしていたけど、その上を遥かにいくような金額。
カードならギリ払える。
払えるけど。
「大丈夫。俺が誘ったんだし」
柔らかく笑う土屋さん。
「恥ずかしいけど俺、無趣味でつまんない生活してんの。お金使うとこもなくてさ。だから今日は、見栄張らせて」
「土屋さん……」
「愛美ちゃんと食事をすることが一番の楽しみだから、贅沢したい」
なんて嬉しいことを言ってくれるんだろう。
お酒を飲む前から身体中が熱を帯び、目の前がチカチカする。
頭の中で、大きな鐘がゴーンゴーンと鳴り響いている感覚がした。
……身体の関係だけだったら、すぐにホテルに行くだけで充分なはずなのに。
土屋さんは私との時間も大切にしてくれる。
「肉好き? 海鮮も美味いけど」
照れ隠しのようにメニューを見つめる土屋さんに、胸をギュッと掴まれる。
まるでデートみたい。
ビールで乾杯する時の土屋さんが、本当に嬉しそうに笑ってくれているように見えて、私も胸がいっぱいになった。
家族構成は。
好きな食べ物は。
元気が出ないときに聴く音楽は。
今までで一番心に残っている映画のシーンは。
美味しい料理を味わいながら、先週よりももっと詳しくお互いの話をする。
どんな話題になっても話は絶えなくて。
時計の針を確認するのが怖くなるほど、贅沢な時間だった。
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