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嘘でしょ。違うよね?
私に会いに来たわけじゃない。
きっと偶然……
「愛美!」
立ち尽くす私に近づく土屋さん。
まだ状況が理解できずに、呆然とするしかなかった。
「愛美、ごめん」
そう土屋さんは謝る。
やっぱり遊びだったから?
わざわざこんなところまで来て、そんなことを言わなくてもいいのに。
「騙すつもりじゃなかった。ただ、君と知り合うキッカケが欲しくて。必死だったんだ」
………………
「…………え?」
「名刺落としたのも、ハンカチを落としたのも、全部わざとだ。そうでもしなきゃ、話してくれないと思ったから」
「………………」
……なんの話をしているの?
「気味が悪いと言われたらその通りだと思う。本当に申し訳ない」
「あの、ちょっと待って」
「頼むからお見合いなんてしないで。結婚したいなら……」
土屋さんは真っ赤になってスーツのポケットから何かを取り出した。
手のひらから小さな箱が見えた途端、嗚咽と共に涙が溢れる。
「……俺と結婚して」
両手で開いた箱から煌めいた、ダイヤモンドのリング。
「愛美!」
母の歓喜の声が響き、ホテルのロビーにいる人達が一斉に私達を見る。
……信じられない。
土屋さんが、私と?
「でも……赤ちゃんは?」
泣きながら尋ねる私に、土屋さんはポカンとした。
「赤ちゃん?」
「女の人と……ロンパース買ってたぁ!」
もうわけがわからなくて、泣きじゃくってしまう私。
土屋さんは合点がいったように答えた。
「それ妹。姉が出産予定で。……一緒にお祝い送ろうって提案されて……ちょ、泣かないで」
「うわあああああ」
「愛美! これどういうこと!? ちょっと!」
「うわあああぁぁぁ」
「説明して! 愛美!」
「愛美ちゃん、涙拭いて……あ、お母さん初めまして」
「どうもーお世話になってますぅー」
「うう……う……」
私が泣き止むまで、二人の自己紹介は続いた。
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