歯並びに一目惚れ

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 淡いオレンジ色の照明が癒される、落ち着いた和風の居酒屋。  二~三名向けの半個室へ通され、ギクシャクしながら土屋さんと向かい合って腰かける。 「落ち着きましたか?」 「はい……ありがとうございます」  信じられない。  土屋さんと、二人で食事を?    「あの……お連れの人達は大丈夫なんですか?」  さっき居た社員さん達のことが気がかりで、申し訳ない気持ちになる。 「大丈夫です。飲み代だけ先に託したら、喜んで飲みに行きました」  少し冗談交じりに苦笑する土屋さん。  どこまでも気遣いがあって優しい。 「土屋と申します」  差し出された名刺を受け取る。  もう既に持っていますとは、とてもじゃないけど言えなかった。 「ふ、藤代(ふじしろ)愛美(まなみ)、29歳独身です!」  勢い余ってかなり気合いの入った自己紹介をしてしまった。  少しでも土屋さんに自分を知って欲しくて。  これじゃ、お見合いパーティーみたいだ。  熱くなった顔で俯く。  そもそも、私が彼の通っているクリニックの歯科衛生士だと言うこと、気づかれていないだろうか。 「ふっ」  見上げると、楽しそうに笑う土屋さんの笑顔に目を奪われた。  ちらりと見える歯がやっぱり綺麗で。 「33歳、独身です」 「………………」  独身!? と言うことは私にもチャンスあり!?  でも、彼女はいるとか? 「……お酒飲んでもいいですか?」  彼の何気ない言葉にドキッとする。  初対面の女性とお酒を飲むってことは、フリーだよね?  土屋さんはきっと誠実な人。  そうであって欲しい。 「どうぞ」  メニューを広げて私に差し出す土屋さん。  あまりにも自然なので、女性慣れしているようにも見える。 「藤代さんは?」 「の、飲みます」  お酒が入らなかったら、とてもじゃないけどうまく話せない。  それに、好きな人と一緒にお酒を飲むの、憧れだった。 「何が好き?」 「えっと、果実酒が」 「ここ、梅酒の種類多いよ」 「ホントですか?」  他愛ない会話が嬉しい。  いつの間にか、土屋さんがフランクになっている。  
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