歯並びに一目惚れ

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「そうなんだ。……じゃあ、こういうのにも慣れてるの?」  貫くような視線で土屋さんが言った。  絡めとるような熱い眼差しに、胸が高鳴って目が逸らせない。  こういうのって、どういう意味だろう。  もしかして、本当に土屋さんは……女性と遊ぶことに抵抗がない? 「そう……ですね」 「ふーん……」  明らかに訝しがっている表情。  私の言葉、信憑性なかった!? 「……まあ、今日は飲みましょう?」  そう微笑まれ、思わずこくりと頷く。  彼と飲むお酒は美味しい。  勧められたおつまみもどれも絶品で、どんどん飲み進めてしまう。  それに、グラスを口に運ぶ仕草や、食事中の口の動きが気になってしまって。  逐一ドキドキして、彼から目が離せない。  「……何?」  ずっと釘付けになっていたのがバレて、こちらに向かってクスッと妖艶な笑みを浮かべる土屋さん。 「なんでもないです……」  もしかして、好意に気づかれてしまっているかもしれない。 「藤代さんは趣味とかある?」 「趣味ですか? 映画を観たり……あと、スマホゲームとか」  言った瞬間に後悔した。  クラブで働く人って、いろんなお客様と話すからもっと教養があって博識だよね。  こんなんじゃ、噓がバレてしまう。 「俺も映画好き。スマホゲームはしたことないから、教えて」 「え?」  教えて、なんて。私の趣味に興味を持ってくれるなんて嬉しい。 「パ、パズルゲームとか」 「見せて」  ナチュラルに私の隣に腰かけ、私のスマホを覗き込む土屋さん。  距離が近くて余計にドキドキする。  やっぱりこの人、……玄人だ。 「や、やってみますか?」 「うん」  私のスマホに触れる土屋さんにときめく。  このスマホ、生涯のお守りにしよう。 「あー、負けた。くっそー難しい」  そう言って一生懸命になる土屋さんが可愛くて、我慢できずに笑った。 「こうやるんです」 「すげえ」  得意げになる私に、土屋さんも優しく笑う。  ……どうしよう。楽しい。  ドキドキして胸が苦しいのに、こんなに心地良いなんて。  その後も好きな映画について話したりして、あっという間に時間が過ぎていった。
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