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重たげな雲が幾重にも連なって流れていた。丸窓の格子の隙間からちらついていた雪はもう見えない。雪ばかりではなく、見慣れた天井も柱も少しずつ形を失っていくように霞んでいく。
代わりに、どこまでも続く原野が眼下に広がった。漠とした大地は地平の果てまで白いものに覆われ、立ち枯れの木々や山になだらかに積もっている。ああ、これが雪か。ナグジャが言っていた通りだな。
いつの間にか彩王は馬上からその風景を眺めていた。鬣の色から、幼い頃によく乗っていた愛馬だと気がついた。白い息を吐き出す馬の背中から見る光景が、何故かとても懐かしい。
なめらかな白い雪野に、点々と足跡を見つけた。目で追うと、遥か先で灰色毛の馬に乗ったナグジャがこちらに向かって手を振っているのが見えた。
──遅いぞ、サイ!
白銀の光を浴びながら、あの頃のままのナグジャが弾けるように笑う。かつての名で呼ばれて、彩王は口元を綻ばせた。
「待ってくれ、ナグジャ。今行く……」
眼裏に広がる雪野を、彩王は愛馬と共にどこまでも駆けて行く。
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