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私が体験したお話(小学5年生)
私の家は、元々借家で小さな町の下の段と呼ばれるところで商売をしていました。
下の段は中山道。国道142号線沿いにある宿場町の並ぶ入り口にありました。
私が小学校4年生の終わりごろ、その町の、上の段と呼ばれる、坂を少し上った場所に店ごと引越しました。
引っ越すまでは、全くそんなことは起こらなかったのに、その新しい家に引っ越してから、私は度々金縛りにあうようになりました。
疲れていても、金縛りにあうんだと、本が好きだった私は、怖い本もよく読んでいて、そう言ったことも知っていました。
何かが来て、金縛りにあっていると思うのはとても怖かったので、きっと、引っ越しで疲れたんだ。とか、引っ越して環境が変わったから。とか、色々な理由をつけて、自分の中で納得していました。
私と姉の二人で使う子供部屋は、先に話した母方の祖父が亡くなった時にいた6畳の部屋と、隣にある勉強机が二つ、ようやくおける狭い4畳半の二部屋でした。
6畳にはアプライトのピアノが置いてあり、危ないことに私と姉はピアノの方に頭を向けて布団を並べて敷いて寝ていました。
4畳半と6畳の間には襖があり、寝る時にはそこは閉めて寝ていました。
ある夜、また金縛りにあった私は、珍しく目が覚めていました。
引っ越してしばらくしていましたから5年生になっていたと思います。
いつもは、眠っている中で金縛りにあっている感覚で、何とか親指に集中して力を入れ、そこから金縛りを解くという事を繰り返していました。
半分夢なのかとも思っていたくらいです。
その日、目が覚めていると思ったのは、いつもしまっている筈の4畳半との間の襖が少し空いているのが見えたからです。
おかあさんが覗いているのかな?最初はそんな風に思いましたが、何故か襖の向こうはトイレに行くために豆電球をつけてあるはずなのに、真っ暗だったのです。
それに、おかあさんが覗いているのだったら、階段の電気も見えるはずです。
真っ暗な5cm程の隙間から何かが入ってくる気配がしました。
ミシッ・・ミシッ・・ミシッ・・ミシッ・・ミシッ・・・・・・
私の頭の右側の襖の方から私の右側を通って足の方に足音が移動していきます。
私は金縛りにあっているのも忘れて、足音に耳を傾けました。だって、人の姿もなにも見えていないのに足音が聞こえるのです。
目は開けていても、元々裸眼では0.01もない視力の私には実際に人がいても姿の形であるくらいしかわかりませんけれど、その時には何の形も目にはうつりませんでした。
はっと気が付くと足音は止まっていて何かが姉の足元にいる気配がしました。私の金縛りはとけていました。
その時、
「メリーちゃん!起きてる?」
いつも、一度おやすみなさいを言ったら、絶対に話しかけてこない姉が小さな声で私を呼んでいます。
「うん。」
「ねぇ、今、なにかきたよね。」
「え?お姉ちゃんも聞こえた?」
「ミシッ・・ミシッ・・って。でもさ、この部屋の畳あんな音しないよね。」
姉に言われて私はハッとしました。まだ新しい畳は歩いてもそんなに沈むような音はしたことがないことに。
私と姉は布団から手を出して、その晩はそのまま手をつないで寝ました。
でも、そういった話が嫌いな母には内緒にしておこうと二人で決めました。
その日から、私は何度か怖い思いをしました。
始まりはいつも4畳半の襖からです。
ある時には、金縛りにあって目が覚めたかと思うと、いきなり、襖をスルッと抜けて着物を着た人が入ってきました。そして、あの最初の怖かった日と同じ足音が聞えました。
ミシッ・・ミシッ・・ミシッ・・ミシッ・・ミシッ・・・・・・
ある時はその音が聞こえた後、足を引っ張られました。
ただ、姉は最初の怖かった日以来、何も見ていないし、何も聞いていないというので私だけが騒いだところで何の解決にもなりません。
それに、それ以上の事はおこらなかったので、そのうちに忘れて行きました。
思えば、5年生の中の2か月ほどの出来事です。
怖かったのですが、怖がるとそういうものは図に乗る。
とか、気が付いているのがばれると何かしてもらえると思ってもっと寄ってくると大人になって読んだ本に書いてありました。
その頃の私にとっては、そう言った怪異よりも実際の母の方が怖かったので、そういうものの思い通りにならなかったのかもしれません。
祖父の思い出は私には震える事もないですし、子供部屋で起こったことも一時の事だったのでそのことで震えたのは姉も一緒に見た一晩だけでした。
さて、みなさんには、少しは震えて貰えたでしょうか。
【了】
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