カルテ2『魑魅魍魎』 司ちゃん

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カルテ2『魑魅魍魎』 司ちゃん

「えっ!? 小林さん十九歳なんですか!?」 「はい! 今、〇〇大の一年生です!」 「ええっ!? 超名門じゃないですかぁ!!」 「いえいえ、そんなことは、えへへ・・・」 小林さんがソウマ家に越してきてから二日目。私は先輩、というか姉弟子として小林さんにあれこれ教えていた。 「じゃあ、大学に通いながらソウマ家に居候することに?」 「はい! あ、真樹先輩、敬語と敬称は要らないッスよ! なんたって『姉弟子』なんですから!」 「そ、そう? えっと、じゃあ・・・、司ちゃん、説明はこれで終わりだから、空き時間はここにある本をノートに写してね」 「わかりました!」 小林さん、いや、司ちゃんには驚きの連続だ。実家はお金持ちで、優しい両親に愛された一人娘。超名門大学の現役の学生。そしてなにより、とってもハキハキと喋って、明るい。魑魅魍魎に憑りつかれていた時の、疲労と絶望でぐっしょりと濡れてくたびれたような姿からは想像もできない程だ。元々疲れやすいとは感じていたらしいが、あのストーカー幽霊男が憑りついてからは死を考える程につらかったらしい。憑りつかれた期間は半年と短いのがせめてもの救いか。 こんこんこん。 「あ、どうぞ!」 驚いた。私と司ちゃんに割り当てられた部屋に来たのは菖蒲さんだった。 「夕食前に、少しお話を」 「はい! お師匠!」 すちゃ、と司ちゃんが正座したので、私も横に並ぶ。 「お二人共、シバかれた時になにを感じたのか、話してくれますか?」 菖蒲さんは私を見たあと司ちゃんを見て、再び私を見た。 「菖蒲さんにシバかれた時は、私に憑りついていた父の過去を見ました」 「過去を?」 「はい。詳しく話しますと・・・、」 詳細を話すと、菖蒲さんは頷いた。 「司さんをシバいた時はどうです?」 「司ちゃんの過去を見ました」 「詳しく」 「はい」 再び、詳細を話す。 「司さんはどうです?」 「真樹先輩の気持ちが流れ込んでくるような感じがしました! 人生で初めて人を叩いたから、それが怖くて悲しくて、という感じです!」 菖蒲さんは唇に人差し指を添えて、なにやら考え込み始める。 「わかりました。さ、夕食です。先に居間に行ってください」 「はい」 「わかりました!」 ドアを開け、私は菖蒲さんに頭を下げる。司ちゃんもそれに倣う。菖蒲さんの足元には猫の慈恩さんが居た。猫の時は結構可愛いんだけどな、慈恩さん。でも今まで見た猫の中で一番大きい。やっぱり人間の姿の時の身長が関係しているのだろうか。 「先輩」 「ん?」 「人間の時と猫の時のギャップが良いッスよね・・・」 「そ、そう?」 司ちゃんは筋金入りの動物好きのようだ。中身が慈恩さんだとわかっているのにこんなことを言えるだなんて、度胸があって感心してしまう。でも私もちょっと同じ気持ちだ。 居間に行く。皿を運んでいる克美さんと目が合った瞬間、 何故か、潮のにおいがしたのだった。
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