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カルテ5『克美さん』 心霊スポット
休日、朝食の席。
「今日、予定のある子は?」
「俺、バイト」
菖蒲さんの問いに碧君が答える。
「あたしは予定ないよー」
「私もないです」
菖蒲さんが克美さん、雪弥さん、慈恩さんを見る。
「『依頼』ですか?」
克美さんがそう聞いた。
「そう。前回は翠だったから、今回は桃かな」
「どこ?」
「心霊スポット、〇〇ホテル」
「真樹さんか司さん連れてくの?」
「うーん・・・」
心霊スポット、と聞いて、私の顔は輝いてしまったのだろうか。父をなんとかしようとする過程で、私は嫌うどころか何故かオカルト関係のことが好きになってしまったのである。
「克美さん、桃、真樹さん、今夜、〇〇ホテルという心霊スポットに行ってください」
「はい」
「はーい!」
「菖蒲さん、心霊スポットでなにをするんですか? まさかお祓いを・・・?」
「ご名答」
「大丈夫大丈夫! 見た目はヤバいの多いけど、難易度で言えばイージーなのばっかだからさ」
「詳しい話はあとでします」
菖蒲さんはそう言って食事を再開した。
食後、菖蒲さんとその世話をする雪弥さん、克美さん、桃さんと私で『心霊スポットのお祓い』について話をする。
「真樹さんは初めてでしたね。月に何度か、私の元に『依頼』が来ます。『場所』に憑りつくものをシバく際は、こちらから出向くことがあるのです」
「あ、それで心霊スポットなんですね」
「そう。〇〇ホテルは昔からの心霊スポットでね。今回の依頼が初めてではないのです。今後も何度も出向くことになるでしょう。ああいう場所には色んなものが集まりやすい。特に長期休暇中は、馬鹿な学生が餌食になる。その前に国が私達のような者に依頼して、心霊は取り除くわけです」
「く、国から、ですか」
「そう。真樹さん、ああいう場所で厄介なのは、生きている人間の方ですから気を付けてくださいね」
「えっ?」
「人気のない場所です。というより人が寄り付かない場所だ。子供が酒を飲んだり騒いだりするならまだ良い方。違法薬物や武器の取り引き、使用、男女構わずリンチやレイプする場所にもうってつけですから。怖いもの見たさにやってきた馬鹿を狩るような連中まで居る始末。だから子供だけでは行かせない。父親の誰かを同行させるわけです」
「こ、怖いですね。幽霊より怖いです」
「良い反応です、真樹さん。その感性を大切にしてください」
「はい・・・!」
「初めてですから、一応、お守りをあげましょう。雪弥さん」
雪弥さんはリビングの隅にある棚から、とんでもないものを取り出した。
「すすす、スタンガン、ですか・・・?」
なにやら操作をし、ボタンを押すと、バチバチバチッと心臓に悪い音と共に電流が視認できた。
「ヒェッ・・・!」
無表情でスタンガンを持ってる雪弥さん、滅茶苦茶怖い!
「おもちゃじゃない、ということは、大人ですからわかりますね?」
「は、はい!」
「それともう一つ」
コト、と雪弥さんがスタンガンを私の前に置く。私は必要以上にビクビクしてしまった。雪弥さんが私をスタンガンの電流より強烈に睨み付けながら、菖蒲さんに歩み寄り、長い髪の根元に優しく指を差しこむ。そして、髪を一本だけ引き抜いた。
「手首を」
「は、はい」
雪弥さんが私の手首に菖蒲さんの髪を括り付ける。色んな意味でドキドキした。
「悪戯に切ったら、死にますよ」
「ひぃ・・・は、はい・・・」
「では、今夜、頑張ってください」
「わ、わかりましたあ・・・」
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