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カルテ1『出会い』 種明かし
「あの、なにからお聞きすればいいのか・・・」
「硬いのやめてよ」
「あ、はい。私の肩に居るの、視えてるんですか?」
「きッたないオッサンのこと? 私達のこと睨んでる」
「視えてるんですね・・・。ここで夕飯をごちそうになったら祓えるって言われたんですけど・・・」
「あー、そういう感じ? オッケーオッケー。今日は肉じゃがだよ」
「あ、ありがとうございます・・・?」
翠さんが苦笑する。
「ここはどういう場所なのか、私達は何者なのか、本当に父親の霊を祓えるのか、この三つを聞きたいという顔をしていますね」
「はい」
桃さんと翠さんは顔を見合わせてクスリと笑ったあと、人差し指をピンと立てた。
『神様は八百万。男神も女神も、幸福も貧乏も、一柱残らずまとめてシバキ倒します』
そして、声を揃えてそう言った。
「妖怪、悪霊、神仏。敵か味方かは人次第なので、私達はまとめて『神』ってことにしているんです」
「は、はあ」
「瀬川さんの肩に憑りついているお父さんも、私達は祟り神という見方をします。ソウマ診療所は善い神も悪い神もまとめてシバキ倒すための場所ですよ」
「し、シバキ倒すとは、穏やかではないですね・・・」
「言い方は人次第です。祓う、成仏させる、シバキ倒す。その違いですよ」
「・・・つまり、ここに居る皆さんは、霊能力者、ということですか?」
「私達も神ですよ」
「え」
「受け入れ難いですよね。でもそうなんです。受付の克美おじさんも、薬剤師の雪弥おじさんも、私のお父さん、医者をしている慈恩も、院長の菖蒲もそうなんです」
「あ、ええ・・・?」
「単純に、弱肉強食というお話です」
「り、理屈はわかりました、けど・・・」
「表向きは精神病院ということになっているのは、精神病ではなく神に憑りつかれて体調を崩している人が多く居ますので、そういう人のためですね」
「つまり、ソウマ診療所は、強い神様が集まって、人助けをしている場所なんですね?」
桃さんは苦い顔をし、翠さんは困ったような顔をした。
「私達は家族です」
「あ、そうなんですか?」
「碧にぃと桃ねぇと私は異父兄妹です」
「異父兄妹」
私は繰り返した。父親が違う兄と妹ということ。
「碧にぃは受付の克美おじさんの、桃ねぇは受付の雪弥おじさんの子供です。私は、さっき言った通り医者の慈恩の子供。母親は、院長の菖蒲です」
「・・・ん? ・・・んん?」
「家族経営の病院なんです。あっ、表向きはと言いましたが、父やおじさん達はちゃんと勉強して、免許も取っているので、病院としても問題ありませんよ」
「そ、そうなんですか・・・」
翠さんがにこりと笑った。しかし、初対面の私に、信じ難い話をなんでこんなにペラペラ喋るんだろう。次いで桃さんがにやりと笑う。
「なんでこんなにペラペラ喋るんだろうって顔してる」
「うっ・・・」
「瀬川さんに『適正』があるからだよ」
「適正?」
「夜になればわかるよ。それより、ママにあんまベタベタしちゃ駄目だよ。パパと慈恩おじさんはすっごくやきもち焼きだからね。特にパパは態度に出ちゃうから。子供っぽくてやンなっちゃう」
桃さんが愚痴を言い始めた。よく観察すると、可愛らしい目元は、確かに薬剤師に、雪弥さんに似ている。翠さんも医者の慈恩さんに似ている。私は心底父親を嫌っているので、なんだか微妙な気持ちになってしまった。
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