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カルテ2『魑魅魍魎』 明日は
今日は休日。
碧君は土日だけ居酒屋でアルバイトをしている。お金を稼ぐ大変さを学ばせるためだとか。とても良い考え方だ。桃さんは来年からアルバイト解禁なので、まだ少ないお小遣いと戦いながらも友達と遊園地に遊びに行った。翠さんは料理教室に行っている。小学一年生から中学三年生まで受け入れている教室だそうで、翠さんは小学一年生の頃から通っているベテランだとか。
菖蒲さんと雪弥さんは『デート』らしい。
「今日は物凄く静かですね」
「二人しか居ませんからねえ」
克美さんとの昼食。慈恩さんはテレビの前のソファーで仰向けになって寝ている。野性は兎も角、危機感は無いのだろうか。
「なんだか意外です。菖蒲さん、子供にかなり優しいですよね」
「ハッキリ言っても構いませんよ。子供を甘やかしていると」
「また引っ叩かれたら顎が外れますよぉ」
「気の長い人ですから滅多なことでは怒りませんよ。それに、駆け引きは上手ですけど嫌う性質ですから、気を遣って遠回しな態度を取る方が嫌がられます」
「知れば知る程面白い人ですね、菖蒲さん。『一日一回下らないことを言わないと気が済まない病気』に罹っているし・・・」
「一回は最低回数の話ですからね。酷い時は呼吸のついでに言いますから」
「昨日も『持病の仮病が悪化したから今日はもう寝る』と言ってましたね」
「フフ、全く、困ったものです」
全く困っていなさそうな表情で克美さんは言った。ぷるるるる、と固定電話の呼び出し音が鳴る。ソファーで『猫の姿』で寝転んでいるはずの慈恩さんが『人の姿』でむくりと起き上がり、電話を取る。
「はい、ソウマ診療所です」
慈恩さんは何故か、ちらり、と私を見た。
「初診のご予約ですね」
私は知らなかったのだが、ソウマ診療所は初診は要予約で、正午から午後四時までの休憩時間の間に患者を診ることにしているらしい。なんでも、初診の患者を二人見るだけで休憩時間が潰れてしまう程、初診は大変なのだとか。克美さんにそう聞いた。
「はい。では、明日の〇〇月××日、午後一時に、お待ちしております。失礼します」
相手が電話を切るのを待ってからなのか、慈恩さんは少し間を置いてから受話器を置いた。
「明日午後一時」
「見物だな。行ってくる」
のしのしと歩いて、慈恩さんは居間を出ていった。
「真樹さん」
「はい?」
「明日、デビュー戦ですよ」
「は、デビュー戦・・・?」
「利き腕は右ですよね? 今日は勉強は結構です。明日に備えてゆっくりしてください」
「つ、つまり、私がビンタを?」
克美さんはにっこりと笑った。
・・・マジか。
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