shell・boots

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 その男、《shell・boots》と、名乗るテロリストが宇宙開発センターの配電室を爆破しようとしていたのは紛れもない事実で、体に爆弾を巻き付けて、もう少しで起爆スイッチを押すところだった。   警備員に発見された時、何かに憑かれたように、彼は叫んだ。  「貴様らの世界も未来も命も、全部、我々のものだぁ!」  「馬鹿な真似はよせ!」と、間一髪、勇気ある警備員の一人が飛びついてスイッチを奪わなければ、宇宙に向けた防衛システムのコントロールは使い物にならなくなっていただろう。  警備員と格闘している最中、幸いにも頭に取り付けられていた催眠装置が故障を起こし、彼は正気を取り戻した。  先ほどの狂気が嘘のようにおとなしくなり、「どうしてこんなところに?」と、《shell・boots》は不安げに左右を眺めていた。とても芝居とは思えない。  警備員が「お前は誰だ!」と、問えば、《shell・boots》は戸惑いながら、「わ、わたしは石井重一(いしいしげかず)と、言います。月面基地、《ムーンサイド》で勤務している宇宙開発局の一員です! 認識番号、MSE361」と、答え……。これでようやく地球政府を悩ませたテロリストの正体が判明した。  《ムーンサイド》に問い合わせると、確かに月面基地のロケットの整備班の一員で、二十日前に格納庫で作業中、行方不明になっていたらしい。  審問会議で。このように彼は弁明した。  「急に後ろから得体のしれない連中に襲われたんです。サングラスをして目を隠していました。そうだ、争っている最中にサングラスが外れて、そいつの目が!」  審問官の一人が「目がどうしたのかね?」  そう訊けば、石井は「我々のような目でなく、虫みたいな複眼だったんです! 間違いない! あいつら人間じゃなかった!」と、証言を始めた。  ウソ発見器にかけても、真実なのは疑いようがなく、審問官達は唸るしかない。  もう一人の審議官が、「誰でも、その得体のしれない連中の手下になるという事か?」と、問えば、石井は「信じられないでしょうが、本当なんです! ウソじゃありません!」と、必死に弁明する。  議長は、彼に頷いて見せた。  「いや、信じるよ……。今日はここまでにしておこう、傷が癒えるまでゆっくりと静養したまえ」  「有難うございます」  男は審問官達に頭を下げた。  外科手術で頭脳から取り出された装置から、地球にはない未知の金属が含まれており、その恐るべき催眠効果がラボの実験で判明している。また《ムーンサイド》周辺にはUFOの目撃情報が多く、マスコミに公表できないが、宇宙人の関与があった可能性を否定できなかった。  「罪がない以上、彼は犯罪者リストから抹消しても差し支えはないでしょう。再犯の可能性がないのですから」  そう言いながら議長がファイルを提出すると、局長は答えた。  「そうだな、一ヵ月ほど様子を見て、それからデータから消すか」  もちろん事件の詳細と《shell・boots》の呼称はデータベースから消えないが、石井重一という名は永遠にブラックリストから消えることになった。                          了
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