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東京
遼太郎と自分は玄関から庭に出た。
うちは築40年の中古住宅だけれど、小さな庭がある。庭には小さな菜園があって今は畝に並んだニラがひたすら春を待っているのだけれど、その横に見たことのない男物のパンツが一枚放り出されていたのだった。これが猿たちの来訪のしるしだと知ったのは最近のことだった。
自分が庭の奥の物置の方へ顔を向けると、入り口の引き戸から白いきれいな猿の頭が現れこちらへ会釈しすぐに消えた。
「きれいな猿だね。遼太郎、今日の使者はどこからだって?」
「地獄谷」
「へえ。遠いところをまあ」
カンボジアのシェムリアップから、自分は遼太郎を連れて東京のこの家に帰って来たのだけれど、雲に乗って自分たちの乗った飛行機を追いかけてきたものがあったのでした。まさか、ハヌマーンが東京に来るとは思わなかった。
ハヌマーンは、我が家にたどり着くと、ききー、とひと鳴き。
それを全リンガルの遼太郎に通訳してもらったところ。
「東京は猿度が低い。これはいけない」
とのことだった。
かくして、ハヌマーンはそのまま我が家の物置を住みかと定め、毎日日本各地の猿たちと連絡を取り合っている。
昨日は屋久島から使者が一匹で。一昨日は日光から大勢連れだって猿たちがここにやって来た。みんな男物のパンツを持って。
「遼太郎。ハヌマーンはほんとにやるのかね。東京の猿自由化」
「ははは。ハヌマーンがやると言ったらやるよ。この町は清潔すぎるんだってさ。彼の気にいらないらしい。東京の人口と同じだけの猿を集めるって言ってた。日本だけじゃ足りないから、今世界各地と連絡を取り合ってる」
どうなることやら。
ちょっとだけわくわくする。自分の中にはまだ子供が住んでる。
そしてホントの子供になった元シヴァの遼太郎もそばにいる。
庭のハヌマーンの写真はどうしても撮れないので、ひとまずこれで。
終わり
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