急患

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 午前2時頃だった。男の病室から緊急を知らせるアラームが灯った。僕と看護師が慌てて男の病室に駆けつける。男がベッドで半身を起こして両手を前にならいの状態で俯きぶるぶる震えていた。 「う~、う~」  顔色がひどく悪い。獣みたいなうなり声をあげて口元から(よだれ)もたれているようだ。病室の仄暗い照明のせいでなんだかゾンビのようだった。 「醒井さん、醒井三郎さん。大丈夫ですかぁ」   僕はペンライトを片手に聴診器を首にかけ看護師とともに男に近寄った。その時、男の口が耳まで裂け凄みある般若になって一瞬笑ったように見えた。  僕は男に声をかけながら看護師と共にベッドの脇に立って診察を開始した。 「醒井さん、醒井三郎さん。落ち着いてくださいね」  男は小刻みに震えうなり声をあげていたが所詮60歳を超えた小さな老人。実際は俯いた姿勢で僕たちになすがままであった。  看護師が男の手を下ろし素早く入院着をはだけ体温計をあてた。僕はその間、男の脈をとり聴診器を胸にあて、口を開けさせ喉を確認した。特に異常はない。但し、触った男の肌はじっとり熱く、体温計はぴったり39度を指していた。男の震えは止まらない。 「醒井さん。熱に効く薬を投入します。すぐ落ち着きますからねぇ」  僕と看護師は点滴に熱を下げる薬品を処方して男を静かにベッドに寝かせた。男の震えが少し落ち着き、僕たちは引き返そうとベッドに背を向けた。
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