急患

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 突然、男ががばっと跳ね起きた。  僕たちが振り返ろうとする前に男が僕の背中に飛びついていた。 「わっ!なっ、なんだ!」 「あっ!先生!」  僕と看護師は同時に叫んでいた。  なんと、男は僕の背中におぶさってピタッと張り付いている。 「さぶいよ~。さぶいよ~」  男は震える手で僕の白衣の胸ポケットの中や腰脇の両サイドのポケットの中を(まさぐ)り始めた。僕は、絶叫していた。 「うわぁ~!やめて!醒井さん!やめてください!」  看護師は腰を抜かしてへたり込んでしまった。  僕は、必死で男のそれぞれの手をふり(ほど)こう努力する。そして、全身を激しく揺さぶり男を振り落とそうと試みた。だが、頑として男は背中に張り付いたままだ。 「さぶいよ~。さぶいよ~」  男は震える手で僕の白衣の三つのポケットの中を素早く順番に弄っている。 「さぶいよ~。さぶいよ~」  背中に感じる男の肌が熱い。うなじにかかる男の吐く息はもっと熱かった。 「さぶいよ~。さぶいよ~」  男の震える左手が僕の左胸のポケットの中で胸を小刻みに(まさぐ)った。  男の震える右手が僕の右側のポケット中で太腿の内側を小刻みに弄った。 「さぶいよ~。さぶいよ~」  左胸を離れた男の震える手が僕の左腰のポケットの中に降り、腿の内側を小刻みに弄った。  右腿から離れた男の震える手が僕の左胸のポケットの中へ伸びて、胸を小刻みに弄った。 「さぶいよ~。さぶいよ~」
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