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僕は、ありったけの力で男の手をふり解こう努力した。だが、背中に貼り付いた男はまるで“こなきじじい”。それもひどくいやらしい。その阿修羅のごとき手がポケットの中で僕の胸を、僕の両腿の内側を怪しげにスピーディーに弄り続ける。
「さぶいよ~。さぶいよ~」
「やめてくださいっ!醒井さんっ!」
「さぶいよ~。さぶいよ~」
「やめてください。醒井さん」
「さぶいよ~。さぶいよ~」
「醒井さん。やめて…ください」
「さぶいよ~。さぶいよ~」
「醒…井さん。や…め…て…」
「さぶいよ~。さぶいよ~」
「さ・め・い・さ・ん…」
僕の否定はだんだん弱くなる。息も次第に荒くなってきた。
へたり込んでいた看護師が落ち着きを取り戻し、僕と目があった。何だかニヤリと笑った気がした。
「さぶいよ~。さぶいよ~」
看護師が男の後ろに回った。
「醒井さん。醒井三郎さん。もう大丈夫。寒くないですよ。三郎さん」
看護師が男の背中をトントンと優しくたたきながらなだめると、男は力が次第に抜けてずり落ちた。男は屈み込んで震えながらまだ呟いている。
「さぶいよ~。さぶいよ~」
だが、口調にさきほどからの勢いはなくやがて眠るように崩れ落ちていった。
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