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Ⅵ.100,100円
なんとなくその場にいれなくて、いてはいけないような気がして、俺は外に飛び出した。今、俺のポケットの中には、10万円と100円玉。今の俺の覚悟と、ガキだった頃の俺の覚悟の合計金額だ。
……勝てているだろうか?
この10万円が、過去の俺の覚悟に。
漠然とした夢に踊らされ、金髪にして自信を持ったと錯覚し、無理やり突っ走って、実は覚悟のフリをした、わがままなのではないだろうか。
母さんが送り出してくれた。あんなにあっさりと。
そんなわけ無いのに。きっと他の友だちの家みたいに、家業を手伝って、継いでほしいと思っているに決まっている。それで良い奥さんをもらって、孫を可愛がって、この島の皆が当然に味わうような幸せを、感じたいはずなのだ。
でも許した。許してくれた。
根気のない俺が10万円も貯めたからかな。誰にも黙って努力したからかな。何にせよ、そんな俺のことを尊重してくれた。
ポケットの中が、重い。
母さんを説得した10万円も重い。
母さんを幸せにした100円玉も重い。
10万円で覚悟を認めたのは応援するため。
だとしたら100円玉を俺に託したのは、逃げないため。決めた以上は夢に向かって頑張ってほしいから。それが痛いほど、伝わってくる。
夢に向かって貯めた10万円。
もしかすると、東京に行けば、こんなものはありふれて、価値のないものになって、無くなってしまうかも知れない。
でも、だとしても――。
この100円玉だけは、絶対無くさずに持っていよう。
ありふれた10万円と違って、この100円の持つ意味は、全然ありふれてなんかいない。特別で、無くしてはいけないものだから。
どういう結果になったとしても、この100円玉をまた母さんに渡す日に向かって、俺は毎日、一生懸命進んでいくんだ。胸を張って100円玉を渡せるように、最大限、生きるんだ。
■おわり■
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