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Ⅴ.覚悟
「……あんたが小さい時、お母さんが風邪を引いとった時のことやちゃ。あんたはおじいちゃんにお小遣いをもろうて友達と駄菓子屋に行った。けどなんも買わんで帰ってきた」
「なんも?」
「そうちゃ。そんで帰ってきて、布団で寝ているお母さんとこ来てな、この100円玉をくれたちゃね」
母さんは愛おしそうにその100円玉を指先で撫でた。
「これで薬買うて、お母さん元気になって、って言うてな」
「……そんなこと、あったがっけ」
「あった。まあ薬買うには足りんちゃけど、その日からこの100円玉は、お母さんの宝物やちゃ」
すると母さんは、その100円玉を人差し指で俺の前へと滑らせた。
「これ、返すちゃ」
「え? 宝物って、言うたやちゃ」
「されど100円よ。何かの役に立つかもしれんし、持っていき」
「いやいらんて」
「お守りみたいなもんやちゃ。ほら持っていき」
そう言いながら母さんは、俺のポケットに100円玉を押し込んだ。そして10万円も重ねて束にして、俺に手渡した。
「お父さんも感づいとるて思うけど、お母さんからも話しとくさかい、心配せんと準備しい!」
母さんは、俺の尻をパチンと叩いた。
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