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『実は、これ妻の分の夕飯のおかずなんです。もう亡くなったんですけどね。現実を受け入れられなくて毎晩二人分作っちゃって。そうすれば由美子とまだ食事が出来るような気がして。捨てるのはもったいないですからね。由美子からお下がり頂いてお弁当にしてます』
今日の彼の弁当は…卵焼き、生姜焼き、常連のブロッコリーとミニトマト。
おにぎりは…塩むすびか。
あんな話を聞いてしまうと、哀しい弁当だな。
給湯室の電子レンジで温めた弁当からは湯気が出ている。
つい定食屋に行きたくなるにおいだが、今食うと帰らぬ妻を忍ぶ味になってしまう。
しかしなんとも切ない弁当だな。
節約だとか健康のためだとかは聞いたことあるが、そうか、妻の夕飯か。
空席相手に二人分並んだ食事。
想像すると哀しくなるな。
まだ若いのに、頑張れよ。
ところでこの話は唐突に終わる。
あれは確か給料日の前日だったから24日か。
俺が最後に見た彼の弁当は「チキンのハニーマスタードソテー」だった。
ハニーマスタードがなんだかわからなくて妻に聞いたから覚えている。
俺の弁当ウォッチングはそこで終了した。
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