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全員の安全が確保されたところで、ようやく三人にも余裕が出来てきた。
「そあいやぁ、栗本の判断は絶妙だったな。お前ってロープ結べるのな。どこで学んだんだ?」
マカロンは栗本に感心をしつつ、栗本の技能にも興味を持った。
「ロープって、もやい結びの事ですか?」
「モアイ結び?」
「いえいえ、そんなどこぞの島の石像みたいな名前じゃありません。もやい結びです。船を操船する人ですと、ボーラインノットの方が馴染みの言葉かもしれませんね。まぁ、一言でいうと、輪っかが縮まらない結び方ですよ」
「……いや、アッシが聞きたいのはそんなうんちくじゃなくて、何故栗本が、そんな結び方をする事が出来るのかが聞きたいんだ。お前ただのアニオタだろう?」
栗本は、マカロンの認識がただのアニオタだった事に、少なからずショックを受けていた。
「ただのアニオタ……。いえ、間違っていませんが……。そうですよね。僕なんてただのアニオタですからね……」
「こら、マカロン! 栗本さんに謝りなさい。私は栗本さんの機転のお陰で助かったんですからね」
メイに雷を落とされたマカロンは、シュンとして栗本に謝るのだった。
「すまん栗本。メイを救ってくれて有り難う」
深々とお辞儀をするマカロンを見て、栗本も機嫌を取り直した。
「いいですよ。オタクなのは、事実ですしね」
お礼をされた栗本もまた、照れ臭かったのか、その頬は少し赤らんでいた。
「それはそうと、話を戻すけれど、何で栗本はロープワークが出来るんだ?」
「それは私も気になります。あの時栗本さんが、自身を持って、大丈夫と言ったから、私も輪っかの中に足を入れられましたし……」
栗本は、少し悩んだ顔をしながら、言葉を選んだ。
「それを言うなら、僕だって同じです。まさか渡辺さんが、安田さんの補助が出来るなんて思ってませんでしたし」
「あぁ、アッシの場合は、メイと中学まで一緒にクライミングしてたからな」
「そうだったんですね。まぁ、僕も似たようなもんですよ。ただ中学まで、ボーイスカウトをしていただけです」
「ボーイスカウトって、キャンプとかするあれか?」
「そうです。小さい時からやらされていたので、ロープワークは体に染み付いているんですよ」
「以外だ……栗本にそんな特技があるとは……」
そんな風にお互いの能力を認め合っていると、ひと際大な声が、その場を支配した。
「おとぉぉおおおお! どこにいるのぉぉぉおおおお~~~!」
その声に反応して、メイの脇にいる子供が大声を上げた。
「ママぁぁぁああ!!」
「おとぉぉおおお」
どうやら母親が見つかったらしい。
音は母親を見つけるなり、駆け足でその胸に飛び込んだ。
「まばぁぁぁ、ごわがっだよぉぉお」
泣きじゃくる我が子をぎゅっと抱き締めながら、母親は謝っていた。
「ごめんね。パパと二年参りに行ってたら、まさか火事になるんて……ごめんね……」
母親もまた、子供を抱き締めながら、号泣していた。
そして、音と母親が少し落ち着いた頃、音はマカロン達を指差した。
「ママあのね。あのお姉ちゃん達が、僕を助けてくれたの」
母親は涙を拭って、子供の命を救ってくれた恩人達の顔を見た。
そこには、人命救助とは無縁そうなピンクのツインテールをなびかせたギャルと、いかにもアニメオタクのようなポッチャリ風体の高校生が立っていた。
「そんでねママ。僕をベランダまで助けに来てくれたお姉ちゃんが、あれ!」
そう言って指差された女子高生は、わんわんと泣きながら四つん這いになって路上でうなだれていた。
「あぁぁああ、うぐぅ。……お母さんご免なさい。せっかく買ってもらったロープ燃えちゃって…………」
母親は三人の姿を見て、呆気に取られていた。
それもそのはず。我が子を助けてくれた命の恩人が、想像とはかけ離れすぎた出で立ちの高校生だったので、その反応はある意味当然といえよう。
マカロンも、そりぁ我々の姿を見れば、その反応は正しいだろうと思いつつも、伝えねばならない事が在るため、母親の前へと足を進めて対峙した。
そして、子供を助けるまでの経緯を話した後、泣きながら肩を落としているメイを指してお願いをするのだった。
「お母さん、火事で大変な所悪いのだが、今回の一番の功労者である彼女のロープを弁償してあげてはくれないか?」
その申し出を受けた母親は、少し間を開けた後、まるで聖母の様な笑顔に、涙を軽くトッピングして答えた。
「――ええ。もちろん喜んで!」
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