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魔法局付き事務官の話
俺はしがない男爵家の三男に生まれた。
家督は長兄が継ぐ。
次兄は顔がいいから、さっさと後継のいない良家の令嬢と婚約した。
俺はなんと兄弟3人の中で唯一魔法が使えた。
学園での成績も良く、成績上位をキープしたまま卒業することができた。
卒業後の進路はすぐに決まった。魔法局だ。
ハッキリ言って、家族の中でダントツの出世頭となった。両親の自慢の息子である。
しかし、だ…
「あぁ…黒髪だ」
「マジか…」
同期の中で1人だけ黒髪が居た。
髪色は魔力量のバロメーター。
黒髪は太古の魔族の血を引いている、なんて言われている。
「あんなヤツ学園にいたか?」
「いや、知らないな…」
そこへ魔法局トップであるメルリウス局長がやって来てこう言った。
「アイツは他国からスカウトして来た。俺の右腕にする」
この国は、階級制度はあれども実力主義の世界だ。例え平民でも能力さえあれば、のし上がれる実力社会。
「あー、俺は事務方を希望しますっ」
「じゃあ俺は技官で!」
俺がエリート街道から早々に離脱した瞬間だった。
◆◆
あれから5年。
自分で言うのも何だが、事務官職も板についてきたな。と思っていた矢先にとんでもない事件が起こった。
まぁ、魔法局というところは、他の局と比べて下剋上の顕著な部署だ。能力次第で入れ替わりも激しいし、トラブルも多い。
そんな尻拭いをするのも俺の仕事なのだが…
「ハア〜〜!!??局長が行方不明??」
「声がデカい!」
いつも冷静沈着な局長の右腕くん、ジェイドが青ざめている。
「とりあえず人を手配してくれないか。事故か事件かまだわからないんだ。家人も心当たりがないらしい…」
「家人?お前、あのお姫さんに会ったのか?!喋ったのか?!抜け駆けして癒されてんじゃねえよ…あぁクソ羨ましいな局長!」
ボヤきながらも俺は仕事が早い。
デキる男だから。
それから事態は二転三転した。魔法局は混乱渦中な状況にありながらも、箝口令が敷かれているせいで、更に神経をすり減らす毎日だ。
特にジェイドは気の毒な程に多忙を極めている。
毎日どこにいるのかわからない。
たまに局内に居ても、放心しているか頭を抱えてブツブツ何かを呟いている。
「アイツも大変だなぁ」
「有能なのも考えモンだな…」
局長の右腕なだけあって有能なヤツだ。
噂によると、局長以上…あるいは2年前にここを辞めたキャロ姐以上の能力があって、しかもそれを隠しているのではないかとのこと。
「俺たち文官でヨカッタな」
なんて…
まるで他人事なのは俺たちだけじゃない。
古参の魔術師は局長不在でも、なんだかんだ通常業務に戻っているし、コレ別に局長要らなくね?とか呑気に話していたし。
必死になっているのはジェイドひとり。
ある日、遅くに帰って来たジェイドが、極限に近い顔で局長室に入って行くのを見かけた。確か今日は、キャロ姐の家に行くとか言っていたか。
流石に精神崩壊の域に達したんじゃないかと心配になり、俺は様子を見に行った。
「ジェイ…大丈夫か?」
ジェイドは自席で例の如く頭を抱えていた。
「おい?どうしたんだよ?」
よく聞き取れないが『取り返しがつかない』とか『とんでもないことをしてしまった』とか言っている。
「なぁ、ジェイ。お前が責任を感じることなんてひとつもないだろ?悪いのは全部局長じゃないか。お前はよくやってるよ。大丈夫だ、何かあったら俺たちが力になってやるから、同期じゃないか。ひとりで抱え込まないで、俺たちを頼ってくれよ」
のろのろと頭を上げるジェイド。なぜだか不思議そうな顔でこちらを見てくる。
「頼っても、いいのか?」
「当たり前だろ!まぁ、お前が全力を出した結果、どうにもならなくなったら呼んでくれ!」
実質トップかも知れないヤツに俺ごときが大見得切ったところで、頼られても困ると思い、若干修正をかけた。
するとジェイドは半泣きな、心底ホッとしたような表情で言ったのだ。
「ありがとう。気持ちが楽になった」
そして、アイツは本当にやりやがった。
アイツは単独で局長の居場所を突き止めた。そこまではいい。そのあとがとにかく早かった。
どうやら局長は気が触れたらしい。
魔法局のトップが不在なのは体面が悪いという事もあり、次期局長の候補者を選定した。その中にアイツが立候補した。
後日、ジェイド本人から聞いた話によると、ただ、俺の助言通りにしただけなのだと…「とりあえず全力を出した」と満面の笑みでヤツはそう言ったのだ。
「僕の右腕になってくれないか?」
「は?俺?イヤイヤイヤなんで俺?」
新局長に就任したジェイドは、ここ最近の憂がなくなったのか、憑き物が落ちたように生き生きとした表情になっていた。
「僕がここまで来れたのは、お前が後押ししてくれたからだろ。エオリアとの結婚も正式に決まったんだ。局長になることが条件だったんだよ。本当にお前には感謝しかない」
は?
「いま何つった?結婚???」
「ああ」
俺はしばらく開いた口が塞がらない状態だったが、今になってようやく分かったような気がする。
コイツが必死になっていたのは、全部お姫さんのため。
あんなに悩んでいたのは、まさか…恋の悩み???
「………」
やっぱり有能なヤツは俺らとは別世界を生きているのか…幸せボケしたジェイドの顔を見ながら俺は思った。
お姫さん同様に俺もコイツから逃げられる気がしない。
右腕になってやろうじゃないか。
たった今からエリート街道に乗ってやるさ!
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