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ぱちぱちと暖炉で火がはぜる。
石積みの塒は乾いて温かく、清潔だ。
ここならゾーイも回復してくれるに違いない。
ゾーイが俺のベッドで眠っている。すう、すう、というやわらかな呼吸音と共に、分厚い毛布が微かに上下している。
「だいぶ顔色がよくなってきた」
よし、と暖炉の火にかけた鍋の蓋をあけた。ぶわ、とボリューミーな湯気と香りがひろがる。鹿肉のシチューだ。
背後で物音がした。
おたま片手に振り返る。
銀髪碧眼の少女──ゾーイが俺をじいっと見つめていた。
よかった、という気持ちと、怖がられないだろうか、という気持ちが同時に沸いた。
エマ博士はちゃんとゾーイに昔話をしてくれていた。だけどそれは三年前の話で、その時、ゾーイはまだ四歳だった。これまで顔を合わせたのはたったの四回。しかも会うたびに爆泣きされていた。今回は大丈夫だろうか。そもそも俺のことを覚えているだろうか。
七歳のゾーイが、にぱぁっと笑った。
「あなたシリウスね? シリウスでしょう?」
思わず、きょとん、としてしまった。
それは確信があっての発言か? ただのあてずっぽうか? どっちだ。
そう聞く間もなく、ゾーイがベッドからぴょんと飛び降りた。防寒着とブーツは脱がせていたので、もこもこのワンピースとズボン姿だ。
小走りに近寄ってきたかと思うと、鍋のシチューを覗き込む。頃合いね、と目を光らせ、素早くあたりを見回し、戸棚の下へと走っていく。
「あ、危ないって。俺がやるから」
「私もお手伝いするわ。お腹ぺこぺこなの」
ともかく、怖がられてはいないようだ。元気なのもいいことだ、とゾーイのペースに巻き込まれているうちに、食事の支度が済んだ。
ゾーイの分だけを用意すると不服そうな顔をされたので、二皿用意し、二人で食卓を囲むことになった。
ゾーイが小さな匙でシチューをすくう。ふう、と冷ましてから口に運ぶ。ぱぁっと顔が輝く。
「ママのシチューと全然違うわ!」
「なぁ、俺のこと覚えてるんだよな?」
念のための確認だった。
というか、俺を知らずしてこの状況に持ち込んだというのなら、かなり大胆なやつだ。
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