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ゾーイが、うん! と(うなづ)いた。 「勿論よ。シリウスが悪霊をやっつけてくれる代わりに、私たちは年に一度、シリウスの(ねぐら)にお邪魔して、献上品を差し上げる──のよね? 昔、ここでアイスクリームを食べたのを覚えてる。ここまでの道のりも、あなたの顔も」 「そっか……覚えててくれて、ありがとう」 頭の中に、ある光景がよみがえってきた。 まさに今日、ゾーイが倒れていた岩の近くが待ち合わせ場所だった。 バリアの向こうからエマ博士率いる研究者の一団がやってくる。気休め程度にしかならないが、と俺が渡した悪霊除けの太鼓や、鈴の音が辺り一帯に響き渡る。 エマ博士が「やあ!」と明るい顔で笑いかけてくれる。 俺は、自分の塒まで博士たちを護衛する。 塒に着くとみんなでアイスクリームを食べながら、この一年のできごとを一晩中話し合う。 エマ博士によると、悪霊が襲いかかってくる理由は全くの不明らしい。だけど、何かある。それを解明するのが使命なのだと(ほこ)らし()にしていた。 他の研究者たちが口々に仮説を唱え合う。ゾーイが爆泣きする。エマ博士がよしよしと(なだ)める。 そういった全てのやりとりが、心地よかった。 翌朝、例の岩のところまでエマ博士たちを送っていく。 明るい雪景色の向こうに、みんなの後ろ姿が消えていく。 なあゾーイ、と問い詰めかけて口を閉ざした。怖がらせてはいけない。 息を整えて、再度口をひらく。 「……エマ博士から何か伝言を預かってないか? その、ここへ来ることに関して」 「特に何も──その、私も聞きたいことがあって……シリウスこそ聞いてない? 私がここへ連れてきてもらえなくなった理由について」 「ん?」 「ほら、ママも皆も毎年シリウスと会ってるんでしょう? 帰ってくるたびに余ったアイスクリームはもらえるんだけど。私は、もう、バリアの向こう側には出ちゃだめって」 返事に(きゅう)した。 エマ博士はここへは来ていない。正直に話すべきだろうか。何か理由があって秘密にしているのだとしたら言うべきではないかもしれない。 ひとまず、いたずらっぽく笑って尋ねてみる。 「バリアの向こう側には出ちゃだめって言われてるのに、ゾーイはなんでバリアを越えてきたんだ?」
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