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「やっぱり人間が考えつくところはみんな同じなのかもな。私は単なる労働力ではなく、エマのバックアップとして選ばれ、特別なカスタムを受けた。他にも様々な役割を補完すべく何体もの機械人形が選ばれ、暗い地下から運び出されていった」
途端、あちこちから微かな駆動音が聞こえてきた。
俺は槍を構えた。
いつの間にか、エマ博士の顔をしたそれの後ろに、何百体もの機械人形がずらっと並んでいた。
ゾーイが俺の手をぎゅっと握りしめる。
「国の人間が全員亡くなって、機械人形だけになったあの日から、私たちは今までの日々を再現し続けた」
閉じた世界の中で、ぐるぐると回り続ける日常。
それを幸福と呼ぶのか、あるいは。
「俺を呼んでくれたら、良かったのに」
言って、自分の声がふるえていることに気がついた。人間が──エマ博士が死んだ世界を目の前にして、俺はどうするつもりだったのだろう。
この、ごっこ遊びみたいな日常に付き合うつもりだったのだろうか。
それとも、とゾーイを見やる。
ゾーイが泣きそうな顔で俺を見た。
俺と来る? こんな俺と? ちゃんと育てられるかもわからないのに?
目の前がちかちかと明滅する中、エマ博士に似たそれが言った。
「塒へ行けず悪かったよ。私たちはバリアの外ではうまく動けなかった。それに機械人形たちだけでのメンテナンスは困難で──頑張ったけれど無理だった。機械の国は壊れる。私たちも、もう、もたないだろう。こんな寒いところでさ……我々はよくやったよ」
誇らしげな声に、瞳に、はっとさせられた。
よくやった、の中に、たぶん、俺も含まれていた。そう、聞こえてしまった。
おかげで、この三年間の頑張りが一気に報われた気がしたのだ。
相手は、ただの、機械人形なのに。
機械人形のくせに。
「ねえママ」
か細い声はゾーイだった。
「ママたちがシリウスのところへ行っていたのは嘘だったの?」
「うん……行くふりをして国の中に隠れていたんだ。ごめんね」
ママ、とゾーイが駆け出した。
もうゾーイを引き止めることはできなかった。エマ博士に似たそれが手を広げる。ゾーイが腕の中に飛び込んでいく。
「愛してるよ、ゾーイ。愛してる」
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