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ぞわり全身の毛が逆立った。背後を振り返る。空を覆い尽くさんばかりの黒い靄がかかっていた。悪霊だ。今まで対峙していたものとは比べ物にならないくらい巨大でおぞましい。
なぜかはわからないけれど、この国を狙っているのはわかった。
機械の国が悪霊の波に飲み込まれるのは、時間の問題だ。
逃げなくては、と思った瞬間だった。
「シリウス、ゾーイを守ってくれてありがとう」
声はやけにはっきり聞こえた。
エマ博士に似たそれを見る。
「おい」
声をかけたけれど、それは、ぴくりとも動かなかった。
それだけではなく、他の数百体の機械人形も、全て。
いつのまにか、微かな駆動音は全て消え失せていた。
びゅん、と何かが頬を掠める。咄嗟に避ける。地面に跳ねて再度襲ってきたそれを、槍で払う。悪霊だった。槍だけでも追い払うことはできるが、呪いを唱えていないので、完全には祓えていない。
「ゾーイ!」
名前を呼んだけれど、反応は無かった。
また、黒い靄がこちらへ突っ込んでくる。跳んで躱す。反動を利用して槍を振るう。呪いを唱えつつ、二度、三度、回転させる勢いのままに槍で弾き上げる。
黒い靄が霧散していく。いつも通りだ。問題ない。だが、気づけば囲まれていた。数が多い。
「ゾーイ! 俺と来い!」
できるのか? とか、俺なんかが? とか、四の五の言ってる場合じゃない。後のことなんか知らない。
連れて逃げるの一択だ。
俺の決意と覚悟を無下にする声が響き渡った。
「ママといる、ママがいなきゃ嫌だぁ」
「冒険者になるんだろ、まだ見ぬ世界を知るんだろ!」
いやだぁああと泣き叫ぶゾーイの声を背中に、必死で悪霊を退ける。今はまだいい。空に浮かぶあの大群が襲ってきたら終わりだ。
突然、右手が重たくなった。
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