お母さんのウォールポケット

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持ち出す物はもう本当にないか、2階から全部の部屋を見て回る。
何回か遊びに来たことはあるが、こんなに各部屋を見るのは初めてだった。
一人暮らしの私の家に智紀が来る方が多かった。

色褪せたカーテン、落書きのあるタンス、アメリカのアーティストのポスター、くまのぬいぐるみ、アップライトのピアノ。
ピアノには子供の頃に流行ったヒーローの柄のカバーがかかっていて、これも色褪せている。
出しっぱなしのミシンがあったから、お母さんの手作りかもしれない。

男の二人暮らしにしては掃除が行き届いているが、お母さんがいなくなった日から家の時間が止まったのがわかる。
幸せな時間を繋ぎ止めるように何も動かしてはいない。

そして部屋を見回りながら思う。
こんなに家を楽しんでいた人が、自分から家出なんてするだろうか。

智紀より先に1階に下りて台所に入ると、食器棚の横に下げられた3段のウォールポケットが目に入った。
何も差し込まれてなく、ずいぶんと黄ばんでしまっている。
お花の刺繍が施されたこれもお母さんの手作りに違いない。
丁寧な刺繍を良く見ようと画鋲から外して手に取ると、ポケットのどれかがカサリといった。

1番上のポケットに同じヒーローの絵がついた二つ折りのメモが入っていた。

智紀がこのヒーロー好きだったんだね…微笑ましく思いながら開いたら、ボールペンの綺麗な字からお母さんの愛が溢れ出した。

から揚げ
冷凍のフライドポテト
手巻き寿司(まぐろ多め)
マカロニサラダ
ブロッコリー
ミニトマト

チョコレートケーキ
明日クィーンケーキ店で予約
ろうそく10本
プレートはHAPPYBIRTHDAYともき